2-10 余裕! 悪役令嬢は確信す!

 ウージェの王宮に入ったヒサコとトウが通されたのは、聴取の会場近くにある控室であった。まだ主だった列席者が全員揃っていないので、少しの間だけ待機しておいてくれとのことだ。


 ヒサコは特に緊張などせず、控室に飾られていた調度品を見て楽しむ程度には余裕があった。



「随分と余裕ね。これから運命を決する一大決戦が始まるっていうのに」



 『五星教ファイブシスターズ』の五柱の群像を眺めるヒサコに対して、トウが話しかけた。トウの目から見ても、ヒサコの余裕は明らかであり、一切の気負いも緊張も見られなかった。



「戦ってのは、準備が大事なの。そして、準備は整っているわ。勝利自体は確定しているから、あとはどこまで切り取れるかよ。ああ、懐かしいなぁ~、大和国の切り取り御免をやってた頃を思い出す」



 そんな懐かしい日々も、信貴山の炎の中に己自身と共に消えた。だが、今こうして、異世界ではあるが、新たな歩みを楽しむことができている。


 そう、下剋上だ。国盗りだ。思うままに駆け、奪い、焼き払い、欲しいものを手にする。財貨も、領地も、女も、名器も、すべて自分の物とする。あの懐かしい日々が戻って来たのだ。


 歓喜せずにはいられない。



「まあ、好き放題にはするけど、女神との契約はしっかり守るから、そこは安心していいから」



「ああ、さっさと魔王見つけて、この世界ともおさらばしたい」



「そんな寂しいこと、言わないでよ~。お楽しみはこれからなんだから」



「うん、そう。あなたと私の“楽しい”には、絶望的な乖離があるってことだけは認識したわ」



 女神が人々に“与える”ことを至上の喜びとするのであれば、目の前の転生者プレイヤの中身は“取る(獲る)”ことを何よりの喜びとしている。


 人と神の違いがあるとはいえ、こうも真逆の存在同士がコンビを組んでいるなど、トウとしては悩ましい限りであった。


 それも見習い神としての修行と割り切ればそれまでなのだが、やはり生理的に受け入れ難いと言わざるを得なかった。



「あ、そうだ。聴取が始まる前に一つ聞いときたかったのだけど、私以外に何かしらの術やスキルを使える人がいるのなら、それを判別できる?」



 もし、分かるのなら確保、ないし勧誘を試みたいとヒサコは考えた。使い方次第で有用であることは、自分自身ですでに証明済みであるからだ。



「可能よ。ただし、対象者への直接的な探知術式で深く調べることは禁じられているから、何か術を使った際には教えてあげるわ」



「ケチ臭いわね~。まあ、その程度なら、よしとしましょうか」



 そうこう二人の雑談が交わされたが、呼び出しがかかったのですぐに中断された。


 そして、二人は会場となる大広間へと向かった

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