1-50 新たなる力! そして、兄妹は肩を並べて女神を襲う!

 箱から取り出したカードの輝きは虹色。Sランクカードの輝きだ。



「おっ!」



「はぁぁぁ!? ここでまたSランクですって!?」



「ありがとう、廬舎那仏と、毘沙門天と、薬師如来!」



「もういい! 黙ってて! てか、マジで変な加護とか入れてないでしょうね、御三方!」



 あまりにぶっ飛び過ぎた状況にテアは頭が痛くなってきたが、女神としての役目をきっちり果たすべく、取り出したカードを覗き込んだ。



「あ~、【性転換】からの派生スキルで、Sランクだと、やっぱこれか、【投影】」



「【投影】とは?」



「言ってみれば、分身体の生成ね。例えば、今ヒサコ、つまり女性体になっているでしょ? 男性体を頭の中でイメージしながら、人体投影って唱えてみて」



「ふむ……。人体投影!」



 ヒサコは目を瞑りながらヒーサの姿をイメージし、そして、力ある言葉を口にした。


 すると、自分の体から何かがニョキニョキと生え出し、ものの十秒ほどで人が形作られた。



「おお、これはすごいわね。もう一人の自分を作り出せたわよ」



「私からの魔力供給がなされている限り、もう一人の自分を呼び出せるわ。念話テレパシーによる操作も可能だけど、魔力供給を受けている分、私が至近にいないと体を維持できないから気を付けてね。あ、あと、今はマッパだけど、イメージすれば服も着せれるから、生成する際は服装もイメージした方がいいわよ」



 確かに、現在生成したヒーサ(偽)は全裸であった。



「まあ、ちょうどいいわ。お兄様、やっちゃって!」



 ヒサコはパチンと指を鳴らすと、ヒーサ(偽)はテアに襲い掛かった。



「え、ちょ!」



 突然の全裸男からの不意討ちにテアは反応が遅れてしまい、勢い任せに座席に組み伏せられた。前掛けエプロンは剥ぎ取られ、手際よくボタンを外されていった。



「なんでこうなんのよ!?」



「まずは“動作確認”、当然でしょ?」



「またそれ!?」



「それに、お人形さん遊びってやつかな♪」



「わたしはお人形さんじゃなくて、女神よ! ぬううう、魔力供給カットォォォ!」



 テアは慌てて魔力を遮断し、襲い掛かっているヒーサ(偽)を消してしまった。



「ああ、残念。これからお兄様と専属侍女のまぐわいを拝見できると思いましたのに」



「気持ち悪いわ!」



 テアは乱れた衣服や髪を整え直すと、気が付いた時にはヒサコがヒーサに変わっていた。



「では、もう一度“動作確認”だ。人体投影!」



 ヒーサが念じながら唱えると、再び体からニョキニョキと生えてきて、人を形作っていった。


 なお、今度は服をイメージしながら投影したため、現れたヒサコ(偽)はちゃんと服を着ている状態で現れた。



「おお、確かに、服を思い浮かべながら使うと、しっかり服も着た状態で出てくるのだな」



「そう言ったじゃない」



「では“動作確認”だ。ヒサコ、やってしまえ」



 ヒーサがパチンと指を鳴らすと、今度はヒサコ(偽)がテアに襲い掛かった。まさかの天丼攻勢にテアは反応が遅れてしまい、またしても組み伏せられてしまった。


 ただし、今度の押し倒してきた相手は女であったが。



「え、ちょ、ま。なんでこうなんのよ!?」



「まずは“動作確認”だと言っただろう?」



「いい加減にしてよ!」



「断固として断る。まあ、あれだ。お人形さん遊びというやつよ」



「だから、私は女神だって言ってるでしょ! 魔力供給カットォォォ!」



 再び供給魔力が断たれたため、テアの衣服をひん剥こうとしていたヒサコ(偽)は形を維持できなくなり、跡形もなく消えてしまった。



「ハァハァ、ったく、兄も妹も考えることは一緒か!」



「そりゃ、中身一緒だからな」



「そうだった。ったく、また面倒なスキルが手に入ったわね」



「うむ、偽装工作がはかどる」



 近くにテアがいるという条件ではあるが、ヒーサとヒサコが同一の空間に存在できる。そうすれば、同一人物だとバレる可能性がグッと低くなるのだ。



「ああ、でも、注意点があるわよ。生成した分身体が負傷した場合、同じ傷を受けることになるから、無茶な使い方はダメよ」



「なんだと! それでは、肉盾や人間爆弾ができぬではないか!」



「やる気だったんかい! つ~か、真っ先にそう言う発想に至るのが恐ろしいわよ!」



「戦国ゆえ、致し方なし」



「もうヤダ、戦国」



 気付けば、またヒサコを生成しており、並んで腰かけ、同時にテアに向かって身を乗り出し、満面の笑みを浮かべてきた。そして、“声を揃えて”言い放った。



「「さあ、道中は長いし、楽しんでいこう♪」」



「しかも喋れるようになってるぅぅぅ! 誰か助けてぇ!」



 女神の救援の声はゴトガタ揺れる馬車の音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。


 こうして、一連の事件は一応の決着がつき、戦国の梟雄は転生先でまんまと公爵位を簒奪することに成功した。あとは形式的な手続きを王都で済ませればいいだけだ。


 そして、次なる獲物はカウラ伯爵領と、女伯爵ティースである。すでに幾重にも罠を仕掛け、領主も土地も我が物にせんと企んでいた。


 梟雄・松永久秀の家紋は“蔦紋”である。何かに巻き付き、それを伝ってどこまでも大きくなる。


 蔦は次に何に絡み付くのか。そんな想いと女神の悲鳴を同居させ、馬車がガタゴトと街道を進んでいった。



               【第1章『家督簒奪』・完】

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