1-49 出立! 梟雄、王都に向かう!
臣下一同に今後の方針を伝えたその翌日。王都に向けて出立の準備が整い、ヒーサは馬車に乗って屋敷を出発した。
四頭立ての
王都へ訪問するのであるから、しっかりとした見栄えをもって周囲に喧伝し、シガラ公爵ここにありと見せつけなくてはならないのだ。
その前後を儀典用の鎧に身を包んだ騎士が十数騎、護衛についていた。また、側仕えらも数名別の馬車に乗り込み、主君に帯同することになっていた。
そして、
馬車が走り出したのをガタゴト揺れる車体から感じ取った二人は、カーテンを閉めて、隙間から差し込む薄い光の中で今後のことについて話すことにした。
「まずは、計画の第一段階完遂ってところかしら?」
「そうだな。公爵の家督を手にし、財と人手は手に入った。これで計画が進められる」
やり方はどぎついものであったが、あくまで目的は世界のどこかに潜む魔王の探索である。
家督簒奪はそのための下準備であり、ようやくスタートラインに立ったといったところであった。
「それで、これからどうするの?」
「まあ、まだあくまで暫定的な公爵だからな。王都で正式な爵位継承者と認めてもらい、同時に情報収集と人脈作りに精を出すさ。もちろん、ティース嬢を篭絡するか、あるいは貶めるか、会って状況を確認してからにするがな」
「これ以上、何を貶めるのだか」
カウラ伯爵家の受難を考えると、テアとしては多少同情的にならざるを得なかった。
なにしろ、家督簒奪の“ついで”に領地を掠め取られようとしているのだから、完全なとばっちりである。少なくとも、婚姻関係を結ぼうとしている家に対する扱いではない。
そんなテアをよそに、ヒーサは【性転換】を使用し、姿をヒサコに変えてしまった。服装はそのままなので、男装の麗人といった風情を出していた。
「さて、もうすぐ正式な公爵になれるんだし、この姿を表に出すときもやって来たってとこかしら。長かったわ~、偽装工作」
「ヒサコの目撃者は皆殺しにしてね」
「一人生きてるから、皆殺しじゃないわよ」
「え、いたっけ、生存者?」
「
そういえば、そんなのもいたなとテアは思い出した。少しばかり会話を交わしただけであるが、確かにあの歩哨も接触者と言えば接触者であった。
「まあ、誰だか正体は知らないでしょうし、むしろヒサコは以前から存在していたっていう目撃者として、生かしておいてもいいかなってね」
「それはそれは、慈悲深いことで」
テアは心にもない台詞を吐きつつ、改めて目の前の少女を見つめた。
少女というには少しばかり齢を重ねているが、妖艶と可憐を足して割った雰囲気を醸しており、なかなかに見目麗しい。
あるいは、もし実在する公爵の妹だとすると、社交界を代表する華と成り得たであろう。
そんな時だ。どこからともなく、二人の脳内に直接ファンファーレと声が届いた。
チャラララッチャッチャッチャ~♪
スキル【性転換】のレベルが上昇しました。
そして、テアの横に『時空の狭間』で見た箱が現れ、さあ引けと言わんばかりに口を開けた。
「なにこれ?」
ヒサコはいきなりの展開に驚き、現れた箱を凝視した。
だが、それ以上に驚いているのは、テアの方であった。
「あり得んわぁぁぁ! まだこっちの世界に来てから半月経つか経たないかよ!? レベルアップが早すぎるわ!」
それでも現れた物は仕方ないと、絶叫しながらも現れた箱を抱えた。
「レベルアップってなに?」
「スキルには経験値システムが採用されてて、使用したスキルの回数、あるいはスキルを利用してどういう行動を取ったかで経験値が貯まっていくの。で、規定量の経験値を超えると、レベルアップとして追加でスキルカードが手に入る」
「なるほどね。熟達して、次の段階に進んだってことか」
「にしたって早すぎるわよ! 私の呼んだ人間の中じゃ、一月くらいが最速だったのに。それも戦闘系スキルを使って、何度も死線抜けてどうにか手にしたってくらいだったわ」
テアはヒサコに手をかざし、ステータス画面を開いた。
「うっわ、マジで【性転換】の経験値貯まってるわ。おまけに【大徳の威】もかなり貯まってる。こっちも今のペースだと一週間から十日くらいでいけそう。【本草学を極めし者】はそこそこってとこだから、こっちはまだ時間かかるか」
「高ランクほど上がりにくいってとこかしら?」
「ええ。設定されてる必要経験値が多いから、レベルアップまでは時間かかるのが普通。だから、異常だって言ってるのよ。Eランクとかならまだしも、【性転換】はBだし、まして【大徳の威】はSランク。どんだけあの“悪行”で経験値ブーストかかったんだか」
テアはステータス画面を閉じ、箱を掴んだ。
「じゃ、前みたいに、箱に手を突っ込んで」
「ちなみに、今回はどういったのが手に入るの?」
「基本的には、レベルアップしたスキルに対応したものが手に入るわ。スキルの性能向上か、もしくは派生する系統のスキルが手に入るか、そんな感じ」
「なるほどね。では!」
ヒサコは箱に手を突っ込み、中をまさぐった。
そして、カードを一枚掴んで引っこ抜いた。
なお、そのカードはあろうことか、虹色に輝いていた。
すなわち、Sランクカードの輝きだ。
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