1-16 同床異夢!? その想いはすれ違う!

 執務室を出たヒーサはその足で食堂に向かい、軽く食事を済ませた後、自室に戻っていった。


 そして、自室の扉を開け、中に入ると一人の少女が立っていた。もちろんリリンである。



「ヒーサ様、お待ちしておりました」



 リリンは恭しく主人に頭を下げ、これを出迎えた。蝋燭の明かりに浮かぶ少女は可憐であり、ついつい見惚れてしまう者もいるであろう。


 その表情は期待と色恋に酔いしれる女の顔でもあり、幼さの残る顔にはいささか不釣り合いではあった。


 だが、彼女を止めるものは何もない。


 想い人から側にいて良いとの了承を得ているし、今こうしてそのための工作をしてきてくれたところだ。



「リリン、専属の件は父より了承を得てきたぞ」



「はい、ありがとうございます」



 リリンは抱き着きたい気分を必死で抑え、主人から抱擁を待った。自分から抱き着きに行くのはやはり失礼であるし、はしたないと考えたからだ。


 尻尾でも付いていれば、ブンブン横に振りながら“待て”の状態を保持しているようなものだ。


 一声かかればすぐに駆け出せる、そんな姿勢だ。



「そういえば、侍女頭から聞いたのだが、リリンは親戚筋なのだそうだな?」



「はい、そうです。両親が流行り病で揃って亡くなり、一人になったのを引き取っていただいたのです」



「そうかそうか。では、こんな可愛らしい者を招き入れてくれた侍女頭にも礼を言わねばな」



 などと冗談めかして話しつつ、ヒーサはリリンを抱き寄せた。腰に手を回してしっかりと抱き寄せ、もう片方の手で後頭部を撫でた。


 リリンもまた待ちに待った主人からの抱擁に感激し、幸せそうに顔を埋めた。


 そのまま寝台の上に転がし、服をはぎ取り、そして、本日“二度目”の床合戦が始まった。


 だが、床を同じくする主人と侍女メイドの見る夢は違う。主人は目の前の“人形スレイブ”の利用法を考えながら抱き、侍女メイドは主人の寵を受けられる幸せを嚙み締めた。


 こうして体は絡み合うが、心は一切噛み合わない二人の夜はさらに深みを増していった。


 お互いの黒い感情が漏れ出てしまったかのように。


 なお、その隣室ではテアがまたしても、当てつけのごとくリリンの嬌声を聞かされることになり、それを子守歌にして眠りに就かざるを得なかったことは、翌朝になるまで二人に気付かれることはなかった。



「思い切り、壁を蹴っ飛ばしたくなった」



 これが翌日、ヒーサに伝えたテアの言葉である。


 毎日“これ”を聞かされると思うと、いささか同情を覚えるヒーサではあるが、今のところ、手加減するつもりはなかった。

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