第1章 家督簒奪

1-1 転生完了! まずは一発致し候!(前編)

 目が覚めると、そこは寝台ベッドの上であった。


 なかなかに弾力の利いた寝心地で、思わずユサユサしたくなるようないい寝台であった。


 寝台の上で横になっていたのは松永久秀であった。しかし、彼は死んだ。自らが築いた信貴山城、織田軍に攻められ、その炎の中で燃え尽きた。


 そんな彼を拾う神があった。名をテアニンという。緑の髪と瞳が印象的な女神だ。



「ふむ。先程のことは夢幻ではなく、事実というわけか」



 炎に焼かれながら肌には火傷の後が一切ない。それどころか、肉体が若返っている上に、頭髪は老いて禿げも見られた白髪から、整った金髪になっていた。


 上体を起こし、体の各部を確認する。訳の分からぬ真っ白な空間にいる時は、完全なる全裸であったが、今は寝巻きに身を包んでいる。どうやら外は朝が到来したようで、山裾から太陽が顔をのぞかせていた。


 久秀は寝台から起き上がり、自分の姿が映っている鏡を眺めた。



「ほう。これがこの世界でのワシの姿か」



 その姿を久秀は気に入った。南蛮人風の金髪碧眼に白っぽい肌。顔立ちも整っている。何より若返っているので、体がすこぶる軽い。


 腕や足をブンブン振って確かめてみるが、やはり動きがいい。



「フッフッフッ、よいではないか。さて……」



 どう行動すべきか考えていると、部屋に一人の女性が入ってきた。


 長い緑色の髪をした女性で、紺地の服にスカート、そして純白の前掛けエプロンに髪留め。侍女メイド姿をした、先程の世界で色々と説明をしていた女神テアニンだ。



「無事にお目覚めみたいね」



「おお、女神か。気に入ったぞ。この体」



「そりゃよかった」



 テアニンは久秀に歩み寄り、じろじろ見ながら体をぐるりと一周した。



「肉体と魂の同調も問題なさそうね。んじゃ、次は【性転換】が機能するか、試してみましょうか」



「どうすればよい?」



「時空の狭間でやったように、『女になれ』と念じればいけるはずよ」



 テアニンに促されるままに、久秀は目を閉じて念じてみた。


 すると、すぐさま体に変化が生じた。金髪は一気に伸びて、腰に近い位置まで少し波打つ金髪が現れた。乳房が膨らんできて、服の上からでもしっかりとたわわに実っていることが見て取れた。


 もちろん、股座またぐらのイチモツも消え失せており、外見的には完全に女になっていた。



「おお。凄いな。女になったぞ、女に!」



 とりあえず、久秀は大きくなった自分の乳房を揉んでみて、それが本物であることを確認した。



「だが待て。女神よ、確か、人前では変身できないのではなかったか?」



「ええ。“人”前ではね。私はあなたを連れてきた“神”だから、その条件には当てはまらないわよ」



「ああ、なるほど。そういうことか」



 納得した久秀は、再び体のあちこちを動かし始めた。男性体と女性体でどの程度の違いがあるのかを見極めるためだ。



「背丈は少し縮む程度だが、やはり筋力は女の方が劣るな」



「頭の中身は一緒だけど、体付きは変わるしね。声帯も変わるから、声色も違ってくるわよ」



「なるほどな。女言葉やその所作も習得せねばならんし、“久子”を使うのであれば、いささか修練を要するようだな」



 目の前の鏡には腕を組んで仁王立ちの女性の姿が浮かんでいるのだ。この格好をする女性はさすがにいないであろうから、これは修正の必要があるなと考えさせられた。



「女神、男に戻る場合も念じるだけか?」



「ええ、そうよ。『男になれ』と念じるだけでいいわ」



 久秀は再び目を閉じて念じると、再び男の姿に戻った。伸びた髪は縮んでいき、体付きも男のそれに戻った。



「ふむ、使い出はおおよそ理解した。では、次だ。女神よ、ワシが置かれている状況を教えろ」



「はいはい。では、転生者プレイヤー、ステータス!」



 テアニンが手を広げて久秀に向けると、空中に無数の画面が現れ、たくさんの数字や文字が現れた。久秀のキャラの基本情報だ。



「えっとね。現在地は異世界『カメリア』にあるカンバー王国ね。その三大諸侯の一角であるシガラ公爵ニンナ家の次男ヒーサ、それがあなたね」



「ふむ。では、ワシは国持大名の有力家臣の次男坊、それが肩書きか」



「まあ、そんなところね。予想通り、いいとこのお坊ちゃんになれてよかったじゃない」



 貧農の倅なんかにならなくてよかったとテアニンはひとまず胸を撫で下ろしたが、久秀は何か納得していないのか、顎に手を当てて考え出した。



「まあ、色々と考え事もあるでしょうけど、まずはこの世界に慣れることから始めましょう。あ、あなたの名前はヒーサ=ディ=シガラ=ニンナだからね。自分の名前、それから爵位、最後に家名、こういう呼び方になるから」



「日ノ本の呼び方とは逆か。あっちでは最初が家名であったからな」



「それで、私はヒーサお坊ちゃま付きの侍女メイドテアってことになっているから、呼ぶときはちゃんとそう呼んでね、ヒーサお坊ちゃま」



「心得た、テア」



 互いの呼び名を確認し合ったところで、ヒーサは素早く動いた。テアの腕を掴んだかと思うとぐるりとひっくり返しつつ投げ飛ばした。テアは自分の身に何が起こったのか認識できずに視界が回った。


 そのまま寝台の上に寝転がされ、いつの間にか前掛けエプロンを引っぺがされ、服のボタンも外されていた。ポヨンと柔らかいクッションの感触が背中に伝わり、それに合わせて自身の胸も揺れ動いた。



「え? ちょ、え?」



「騒ぐな、すぐ終わる」



 テアに覆いかぶさるようにヒーサがのしかかり、転がされたテアの両手首を掴んで抑えつけた。



「ちょ、ちょっと、ヒサヒデ!」



「ここでの名前はヒーサのはずだが?」



「ああ、そうだったわ。ヒーサお坊ちゃま、これはどういうことでありましょうか?」



 まるで三文芝居でも見させられている感覚であったが、久しぶりに“女体”を組み伏せて支配する楽しさを思い出し、ヒーサこと久秀はニヤリと笑った。



「なあに、お約束よ、お約束。女房もおらぬやもめ暮らしゆえ、遊女を呼んで楽しむこともあるが、今は女中が“御役目”を務めるのも一興だろうて。若様と家中の侍女の逢引なんぞ、珍しくもあるまい?」



「それを今ここでやる!?」



「体の動作確認も兼ねておる。“どこまでやれるのか”ちゃんと調べておかねばなるまい?」



 などど供述しているが、ヒーサの瞳は間違いなく欲望にぎらついていた。よもや異世界に着いた矢先に、女神が転生者プレイヤーから組み伏せられて、一発かまされることになるとは、完全に予想外の出来事であった。



「ちょっとちょっと、マジで待って! 私、こういうのダメだってば!」



「拒まれるくらいがむしろそそる。体付きも良いし、これは楽しめそうだ」



 ヒーサはペロリと舌なめずり。


 かくして転生早々、女神は貞操の危機に陥った。


 自分が召喚した英雄げどうの手によって。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る