第6話 イエスキリストを信じて生きる以外に道はなし

 まさ恵ママは、イエスキリストがついているので、いつも晴れやかな笑顔をしている。

 値上げラッシュに続き、玲奈のようなオーバードーズを受け入れることによって、雰囲気も経営的にも曲がり角を迎えるかもしれない

 しかし、イエスキリストはいつもこの世で捨てられた弱い者の友だった。

 生を受けたのは豪華な宮殿ではなく、なんと馬糞の漂う馬小屋の中で生を受けたのだった。

 このことは、そういった環境のなかで育った人を理解するためだったのだろう。


 そのとき、元ホスト、現長距離トラックの運転手である吉崎と玲奈が入店してきたのだ。

 吉崎は言った。

「僕は今までの罪滅ぼしというわけじゃないけれど、オーバードーズのなかにはホスト狂の女性も多いという。

 だから僕はこれからは、そういった女性を救うなんて大それたことはできないが、話し相手になりたい、いやそうなる必要が与えられているのです」

 まさ恵ママは答えた。

「吉崎君の気持は有難いわ。しかし、ホストトークはダメよ。

 この店以外に行っちゃだめだという縛りや、ときおり冷たくして相手の気を引く地雷はダメよ」

 吉崎は答えた。

「僕達ホストは、今まで計算づくで女性客と会話をしていました。

 女性客は女性ではなくて、単に商売上の客でしかなかったが、これからは違いますよ。

 人間対人間として会話をしていきたい。だからいけないことをしたら、いやしそうになった時点から厳しく叱ることもあります。

 そのことで相手が去っていっても、僕の真心は通じると思うんです」

 私は共感してうなづいたあと、吉崎は語り出した。

「僕は六歳のとき、一度だけ教会に行ったとき、聞いた話をご披露しますね。

『子供たちがマッチ遊びをしていました。まるで噴水のように炎が燃え上がり、すごいな、天まで届くのよという歓声があがりました。

 すると、見たこともない大人がやってきて、すごい剣幕で辞めろと怒鳴りました。

 子供たちはあっけにとられたと同時に、反抗し始めました。

 なんだあ、僕たちは楽しい遊びをしている最中。なのに辞めろだと。

 じゃあ、大人はなんなんだ。そんなに偉いのか。

 殺人、サギ、窃盗、放火など犯罪を犯しているのは、皆大人ではないか。

 自分の悪事をタナにあげ、僕たちの小さな楽しみの邪魔をするな』

 しかし、その子供たちも大人になるに従い、マッチ遊びがどんなに危険なことかわかるときが訪れる筈です。

 僕は今、麻薬中毒など危険なことがおこる前に、オーバードーズを辞めさせる義務があるのです」

 私とまさ恵ママは無言の納得顔で、頷いた。

 

 玲奈が口を開いた。

「吉崎君って、元ホストということが信じられないほど正論を言うし、私には厳しいの。このことって、神様の働きかなと思うことがあるわ」

 まさに神様の働きに違いない。


 自己保身よりも神のために生きていく、これが私の生きる道だと確信した途端に、心に一筋の光がさし込んできた。

 ハレルヤ


 (完結)

 

 

 

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元ホスト一歩手前は救い主に変身 すどう零 @kisamatuma

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