第11話 伯弥の狙い
「米山くん、改めて立ち位置を確認しようか。私は君の言うCリストなんてものは知らないんだよ。だからお金の出しようもないわけだ」
米山伯弥はまた
「そう言ってましたね。丁田さんがそうでも支払いたい方もいるかもしれません。この場で即答して頂く必要はありませんので金額と連絡方法だけお伝えします。リスト1人あたり1億です。
そう言って名前と電話番号だけ記載された名刺を渡された。
「残念だが連絡することは無いだろうね」
と言いながらそれを受け取る。相手が求めるものが金とわかった段階でこちらの勝利は確定している。金なんか払わずに取り返す方法などいくらでもあるのだ。
「確かにそうかもしれないですね」
興味なさそうに米山伯弥は振り返り誰かに合図を出す。入店の際に案内した男がどこからかコートを持って現れた。
「丁田様、すみません。久保田議員から急遽都合がつかなくなった旨の連絡がございまして。ご足労頂き申し訳ないのですが、日を改めて頂きたく存じます。大変申し訳ございません」
こいつらが議員と繋がりがあること自体、嘘の可能性が高い。名前だけ使って呼び出した詐欺師のような奴らという方がしっくりくる。
米山伯弥に目を向けると、こちらを気にも止めずコーヒーを飲んでいる。
ムカつく奴だが、すぐに痛い目にあう事を思いグッと堪えてコートを受け取った。
席を立とうとした時、入り口から警備会社のユニフォームを着た男が3人、走って入店してくる。店内にいたOL風な女性が指を差し、手招きをしながら警備の男達に合図を送っている。その指の先には部下が座っていた。警棒を向け取り囲まれ瞬く間に部下は連れ出されようとしていた。店内は騒然としている。
こんなことがまかり通るか。公務執行妨害だと思わず叫び出そうとするのを堪えていた。これが相手方の仕掛けな事は明らかだった。米山伯弥は白々しくその光景を眺めていた。
部下が連れ出され、店内がひと段落した空気になるなか自分だけは
その時、店の外が先ほどの一件の影響でか一悶着で多少の騒ぎになっているのが見えた。距離が離れていることもありはっきりとは見えなかったが、スモークガラスの向こうに見慣れた色の制服が複数人いることがわかる。あれに賭けるしかない。
「他に用が無いのであれば、失礼する」
そう言って席を立ち、座ったまま雑に会釈をする米山伯弥の横を通り抜けた。コートを羽織りながら店を出ると、あの忌々しい警備員や部下はいなかったが、3人の警官が2人の怒れる市民を抑えているのが見えた。まだ運に見放されてはいないようだ。
ジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、1人の警官に素早く話しかける。
「この店の1番奥に座っている男を確保しろ。殺人教唆の容疑だが公務執行妨害の現行犯で構わん。しくじったらクビが飛ぶと思え」
焦った様子の警官はもう1人の警官に声をかけ2人で店内へ駆け込んで行った。
通りを走るタクシーを捕まえ警視庁へと向かう。あとはリストさえ無事なら一旦は万事解決だ。
携帯を手に取り、ふと思いとどまった。コートのポケットを探る。コートを脱ぎ、内ポケットや他の部分も隈なく探した。襟の裏を触った時、何か硬いものに指が触れる。襟をめくると小型の盗聴器の様なものだった。
相手の思惑が手に取るようにわかる。やはりたかが知れている。他にあるとすればこれか。ポケットから取り出した名刺を窓の外の太陽に向け透かしたが特に埋められているものは無かった。
盗聴器をコートでグルグル巻きにし、座席の横に放り投げ、再び携帯を手に取り、電話帳から慣れた手つきで宛先を選択した。4コール目で電話が繋がる。
「私です。丁田です」
「おう、香川だ。話せ」
「リストが改竄されているかもしれません」
「なに!いつ頃だ。内容は」
電話の向こうは、ほとんど怒鳴り声だった。
「わかりません。米山の弟を名乗る男から、かつて米山が警察内部の人を使って改竄したとの情報を得ました。真偽は不明です」
「どういうことだ。何故弟がお前に情報を渡すんだ」
「目的は金銭で、既にゆすられています」
「…なるほどな」
情報共有を続けた。
「現地にいた警官に逮捕の指示を出しています。連行されればケリが着きます。あとは向こうの仲間をどう引き
暫くの沈黙の後、落ち着きを取り戻した声で返答があった。
「良いだろう。リストはこちらで確認しておく。抜かりなく進めろ」
電話を切り、丸めたコートから盗聴器を手に取った。丁度到着したタクシーから降りつつコートを身に纏い、手に持った盗聴器をコートのポケットにしまった。
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