第5話 反撃の準備
想像通り警察はすぐに駆けつけた。抵抗もせず指示に従いパトカーに乗った。
発砲の後、過去の事件と今回の事件について思いを馳せていた。結果として
捕まってからはトントン拍子でことが進んだ。予想通り拳銃には指紋がついていたそうだ。証拠が偽装されていたことはなんら不思議ではなかった。ルールが書かれた紙についても警察の言葉を借りれば"何の話だ?"だそうだ。
ただ一度だけ気がかりな取り調べがあった。
それまでは、相手が拳銃で自害したとありのままを話していたため供述が嘘だと疑われ、どうやって拳銃を手に入れたのかなど、自分が知りもしないことを聞かれる不毛な取り調べばかりだった。
しかしその取り調べでは状況の確認もほどほどに、ある質問に
違和感を感じたのは、何があったのかを聞き出そうとするのではなく、どこまで知っているかを探ろうとしていると感じたからだ。
取り調べの担当者は裏で誰かが動いていると確証を持っていた。もちろん、過去の事件との関連に気がついてのことかもしれない。だが自分以外の人から見れば、どちらの事件も犯人1人、被害者1人の殺人事件に過ぎないのだ。過去の事件も表立ってはそのように処理されている。
そしてもう1つの理由が冷たさを感じたことだった。他の警察も殺人犯に対しての厳しい態度を持っていたが、それとは完全に異質のものだった。言葉で表すならば殺意だ。犯罪者に対する怒りや叱責、侮蔑とは明確に異なり、何かを知っているなら、もしくはその情報を表に出すつもりなら生かしておくつもりはないといった類の物だった。
当然、全てが自分の思い込みかもしれないことは理解していた。しかし今や事件の真相を追い求めてしまっている自分にしてみれば一考に値する内容だった。リスクとともに真理に迫っているという手応えを感じていたが、期待とは裏腹に投獄までの間、それ以上に得られるものはなにもなかった。
それどころか想像以上の期間、なんの情報も得られず過ごすこととなった。
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とあるマンションの一室にスーツの男が入って行った。部屋の奥には
スーツの男はずかずかと部屋に入り、挨拶もしないまま少し興奮した様子で話し始めた。
「事件を調査しているやつがわかった。
袢纏の男は少し驚いて聞いた。
「どうやって?」
「監視カメラの映像だよ。
「明け方のメンテナンスの影響だったって言ってたやつか」
「そう、その時間は取り調べも無かったし特に気にする必要はないと思っていた。それでも念のため周辺の商店街と図書館、郵便局の監視カメラ映像を確認しに行ったんだ。ほとんど残っていなかったけど図書館だけ該当時間のカメラ映像が残ってた。そこで丁田が警察署に向かってくるのが映ってたんだよ」
「一応聞くけど、他の仕事で来てる可能性は?」
「もちろん記録上はミーティングって事になってたみたいだけど、その会議室は毎朝1課のバカが勝手に使ってんだよ。そいつにも確認したが今まで部屋に入ってきたのは上司が自分を探しにきた時だけだって。同じ署のやつはみんなわかってるからその部屋を使わないんだ」
「うーん、けど証拠としては弱すぎないか。他の署からの出勤なんて他にもいるだろ」
「その日に関しては0だ」
「その日の被疑者の動きは?」
「記録上はずっと留置所で勾留だ。けど出入簿は朝出た記録が訂正線で消されてる状態だったんだよ。
「うーん、確かに怪しいかもしれない。
「…方法はあいつを使って接触する。いいな」
「確証が欲しかったけど仕方ない、準備を始めよう」
英と呼ばれた男は鞄からPCを取り出し机に置いた。そうして2人の男はそれぞれPCを触り黙々と作業を始めた。
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布と紙が擦れる音と古い空調のゴォゴォという音だけが部屋に鳴り響いていた。暑い季節にも関わらず遅くきた梅雨のせいなのか連日雨が続き、げんなりしながらも、慣れた作業を黙々と続けていた。
定刻が過ぎ部屋に戻る途中看守に声をかけられた。
「独活山さん、手紙と差し入れが届いているので受け取りに来て下さい」
わかりましたと、返事をしながら内心驚いていた。2年以上服役をしたが手紙も差し入れも初めてだったし心当たりがなかった。心当たりがないからこそ、期待していることはあった。つまり喫茶店ゲームの犯人からの手紙の可能性を考えていた。
手続きを終え手紙を受け取った。封筒はこれ以上ないほどシンプルで「独活山様」としか書かれていなかった。手紙も簡素なものだったが冒頭を読み正直ガッカリした。それは聞いたこともないメディアからの取材のオファーの手紙だった。
「タイガーメディア営業担当…媒体は、ネットメディアか何かか…」
気落ちしながらも最後まで目を通す中で気がかりな文章を見つけた。文中にはこの様に書いてあった。
"差し入れに小説をお送りします。取材や手紙の返答に向けて予習しておいて頂けますと幸いです。"
文章の通り分厚い小説が差し入れられていた。
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