第八章『いいえ悪意です』
①
目が覚めた時、私は病院のベッドの上だった。
『目が覚めましたね』
目を動かして見ると、横に、風花さまが立っていた。その横には、腕を組んで気難しい顔をするサダハル。
「…風花さま。サダハル様」
『しゃべんな、うすのろ』
私の言葉を遮ったサダハルは、枕元にあったナースコールを作動させ、看護師を呼んだ。
看護師が来るまでの間、事の経緯を風花さまが教えてくれた。
『進捗を聞こうと、栞奈さまのお家を訪れたら、向かいの道路で、あなたが頭から血を流して倒れていましてね。サダハル殿の合流し、すぐに救急車を呼んだ次第です』
神さまでも電話ってできるんだ…。
『神さまでも電話はできますよ。電子機器を介すればね』
私の心を読んだように風花さまが言う。
『まあ、そんなことはどうでもよくて…』
風花さまが、隣のサダハルに目配せをする。
サダハルはこくっと頷くと、私の額に巻かれた包帯を指して言った。
『お前の額の傷から、城山と同じ残穢があった』
「…ということは、つまり」
『同じ奴がやったんだろうな。お前、食事処で、恨まれるようなことしたのか?』
「ええと…」
あの時の甘美な時間を思い出して応えようとしたタイミングで、看護師さんらが病室に入ってきた。
私は口を噤み、サダハルと風花さまは、天井に浮かび上がる。
その後、名前を聞かれたり、簡単な計算問題を解いたり、舌を見られたり、目を見られたり、変な機械に入れられたり…と精密検査を受けた。
出血量に比べて額の傷は浅く、気絶したのも、脳震盪を起こしたためだった。
やってきた警察に、一応被害届を提出した後、お医者さんから一日の検査入院を言い渡され、その日は収束となった。
消灯を過ぎた深夜十一時頃、ようやくサダハルが話の続きを始めた。
『それで、食事処では何が起こったんだ?』
「先輩と一緒にご飯を食べて、まあ、ちょっと頭を撫でられたくらいですね」
『それを見られたのでしょうね』
風花さまが腕を組んで頷く。
『恨みを買うには、十分です』
『けっ! 人間の癖に、うちの栞奈に舐めた真似しやがって…。身元を特定したなら、そいつの一家全員病気にしてやる』
『やめなさいね。サダハル殿なら本当にできかねないので』
風花さまはサダハルの頭をぱしっと叩いた後、真剣な顔をして言った。
『城山さまだけでなく、栞奈さまにも…、しかも直接手を出してきたということは、相当、神宮司様への恋心を拗らせた者なのでしょうね…。今は、神宮司様に近づくのはやめた方が良いと思います』
「いや…、ダメです」
私はひざ元に掛かった布団を握り締め、首を横に振った。
「…怪我をさせられたのなら、なおさら、放っておけません。もしかしたら、城山さんがもっと危険な目に遭うかも…」
『ですが…』
『オレは栞奈の言うことに従うぜ』サダハルが腕を組みながら言う。『城山を狙うやつを捕まえたなら、誠也の好感度も上がるだろうよ』
『サダハル殿、栞奈さまの命に危機が及んだのに、そういうことを言うのは…』
『こちとら、栞奈と縁の糸を結んでんだ。誠也と結ばれないことにゃ、解放されないんだから、なりふり構ってられるかよ』
私の身を心配する風花さまを一蹴したサダハルは、歯を見せて笑い、私の方を振り返った。
『祓神の言うように、栞奈を襲ったやつが、嫉妬に狂った馬鹿女なら、また姿を現すだろ。なんたって、誠也と城山は付き合ってんだからな…』
「…はい」
私は静かに頷いた。
『安心しな。今度は、てめえから離れねえよ。オレたち神々は、お前のことを護ってやる』
『え…、私もですか?』
『お前もだろうが。この偽善祓神』
『ま、まあ、栞奈さまの身は心配なので…』
そうして、厄病神と祓えの神の加護を受けた私は、唇を強く結び、深くうなずいた。
「あああっ! バイト遅刻だ!」
『今日は休めよ』
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