サダハルの作戦は失敗したものの、依然誠也先輩と城山さんが別れなければ話は進まないことに代わりは無かった。

 今、私にできることは、二人が別れることを祈りつつ、自分を磨くこと。可愛い洋服を着たり、化粧をしたり、あと、勉強が良くできたりすることだった。

「サダハル様、どんな服が良いと思います?」

 その日のアルバイトは昼までだったので、私はサダハルを連れてショッピングモール内のブティックを訪れ、服を選んでいた。

 目の前にあるのは、秋に向けた厚手のワンピースや、カーディガン、フリルのロングスカート。それだけじゃなく、夏に売れ残ったポロシャツや、ミニスカートだった。適当に見繕ってみたものの、何を買えばいいのかわからなかった。

「お金が無いもんでね、買ったとしても三着までですよ。でも、化粧品も買いたいから、二着には押さえたいかも…」

『お前、神さまのオレにファッションを聞くのかよ。男なんざ、胸をむき出しにした服を買っておけば、ホテルにでもマンションにでも連れ込んでくれるさ』

「その前に警察署に連れ込まれると思うのですが」

 そんなことを言いながらも、サダハルは選ぶのを手伝ってくれた。

『まあ…、このカーディガンは無いな。うんこみてえな色をしてる。夏物は安いけど、まあ、これから着るものじゃねえからな。このワンピースでいいんじゃねえか? 黒色だから、白いベルトで腰の細さを強調したり、ブーツを履いたりしたら、大人な雰囲気は出ると思うんだが』

「確かに、城山さんは大人っぽいから…」

 やはり、参考にすべきは城山さんの雰囲気とファッションセンスか…。

「じゃあ、とりあえず、このワンピースを買いましょうかね」

 ワンピース、タイツを籠に入れた私は、レジ近くにあった白いベルトも買うと、会計を済ませた。ブーツは既に持っているので、買う必要は無い。

 袋を持って、外に出る。

 平日のショッピングモールのためか、通路を行きかう人は少ない印象。

 新しい服を買って、なんだか妙に興奮していた私は、そのまま女子トイレに入り、買ったものに着替えた。ワンピース、ベルト、タイツ…。うん、可愛い。

 個室から出る。

『髪はほどけば?』

「そうですね」

 当たり前のように女子トイレに入ってきたサダハルに促され、髪を括っていた紐をほどく。

「どうですか?」

『まあ、いいんじゃないか』

 あ、適当言ったな。

 とりあえず、その恰好のまま、コスメショップに行こうと歩き始めた時だった。

 隣を浮遊していたサダハルが、突然肩を震わせた。

「…サダハル様、どうしたんですか?」

『いや…、なんか』

 何とも言えない表情をするサダハル。

『なんとなく、嫌な予感がする』

「嫌な予感?」

 私が髪を揺らして首を傾げた、その瞬間…。

 突然、建物の中にいるというのに、冷たい突風が押し寄せて、私のスカートを揺らした。

「うわっ! なに?」

 またサダハルの仕業だと思い、彼の方を振り返る。

 だが、そこにはサダハルはいなかった。反射的に振り返ると、通路の三十メートル程先を、サダハルが回転しながら飛んでいくのが見えた。

『うわああああっ! 栞奈! 助けてくれえええええっ!』

「さ、サダハル様!」

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