そして、今日行われた打ち上げで、先輩に彼女がいることが判明した。

 しかも、相手は、サークルで一番テニスが上手くて、学内で一番可愛くて、頭が良くて、実家がお金持ちの城山あずささん。付き合って二年目。彼らが付き合っていることは公になっていなかったものの、メンバーのほとんどが薄々勘づいていたらしい。

 そして、今日、アルコールの勢いで暴露したのだ。

「私たち」「オレたち」「「付き合っています」」と…。

「うう…、先輩…」

 居酒屋のカウンターに座った私は、当時のことを思い出しながら、頬を伝う涙を拭った。

 向かいにいた居酒屋の大将が、なにやら感慨深げに頷く。

「うんうん、お嬢ちゃんの気持ちわかるよ。二年以上追い続けた人が、別の誰かの者だったんだからね…。わかっちゃいるけど、悲しいよね…」

「なんで私の事情知っているんですか?」

「いや、さっきからぶつぶつ言ってたじゃないか…。酒に酔っているわけでもないのに…。かまってちゃんなのかな?」

 心の声が洩れていたのなら仕方がない。この大将に私の愚痴を吐露してやろう。

 私は握ったウーロン茶のグラスをカラカラ…と振った。

「先輩の彼女の、城山さんって…、元がめちゃくちゃ可愛いんですよね…。『才能』ってやつです。それなのに、テニスサークルだけじゃなくて、会員制の高級ジムにも通って…、私のお小遣いじゃ買えない美容用品買いまくって…」

「妬みかい?」

「妬みですけど…、あの人、性格がめちゃくちゃ良いんですよ。だから、妬んだところで、私が悪者になるだけです」ため息をつく。「努力をすれば、そこそこ頭が良くなって、可愛くもなれましたが…そこまでですね。才能がある…つまり、最初から恵まれている人が努力をすれば、敵わないってことを身に染みて感じました…」

「そんなことは言っちゃいけねえよ。それ以上に努力すりゃいい話じゃないか」

「マイナスからゼロを経由してプラスに行くのと、プラスからプラスに向かうのじゃ、労力が違うってことですよ。人間にも限界があるってことです」

 ゴツン…とカウンターのテーブルに額を押し付ける。

「…なんか、頑張ってきたけど、これが私の限界ですね…」

 私よりもお金持ちな子は、私が学費と生活費をあくせくと稼いでいる間に、お洒落な服やアクセサリーを買いに行ったり、友人、恋人の戯れの興じるのだ。「勤勉は良い」なんてことを言われているが、案外、後者の方が、人生上手くいくものなのだ。「人とのつながり」ってやつだろうか?

「そうかい…」

 大将は何とも言えない顔で頷いた。

「まあ、飲みなよ。嫌なことは飲んで忘れるのが一番だ。そして、ぐっすり眠れば、案外なんとかなるものさ」

「…そうですかねえ」

 私は涙を流しながら顔を上げる。

「とりあえず、今日の打ち上げ代の四〇〇〇円分、取り戻さないと…。またシフト増やさなきゃ…。これ以上睡眠時間削りたくない…」

「お嬢ちゃん、本当に苦労してるんだね…」

 大将は哀れむような目を向けると、手を叩いた。

「じゃあ、失恋サービスだ。今日の飲み物代はナシにしてあげるよ」

 心底悲しんでいるおかげか、そう言われても心が動かなかった。

「ただ、ですか?」

「おう、オレは、可愛い女の子が泣いているのを見ると、放っておけないたちでね! ほら、飲め! 飲め! 飲まなきゃやっていけないぞ!」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

 私は焼き鳥を一口齧ると、グラスを一気に傾けて飲んだ。

 次の瞬間、喉が焼けるように熱くなり、店長の顔面に盛大に吐く。

「ぶへえええええっ!」

「うわあああああ!」

 大将が慌てて下がった。

 私は喉を抑えると、ぺっぺっ! と飲み物を吐く。

「なんですか! この熱いウーロン茶は!」

「お嬢ちゃんが『ウーロン茶に見せかけたウイスキーに見せかけたウォッカ』って言ったんだろうが!」

「それを提供できるって、どんな居酒屋⁉」

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