⑤
先輩と別れた後も、心臓の音が治まらない。
ふとした瞬間に、あの爽やかな笑顔と、とろけるような「黒宮!」と呼ぶ声が思い出される。それは、忘れようとしても忘れられず、そして、忘れる気にもなれないほど、強く私の中に刻み込まれていた。
ああ、これが、「恋」か。
それから、私は変わった。
なけなしのお小遣いで服を買って揃えて、化粧も覚えて、学校から帰ればランニングをして身体を絞った。眼鏡からコンタクトに変え、「鬱陶しいから」と言う理由で短くしていた髪も、先輩の好みを聞き入れて、長く伸ばした。もちろん、手入れを欠かさなかったおかげで、半年もすれば黒曜石を思わせる黒く艶やかなものに変わってくれた。
友達も頑張って作った。男子とも仲良くした。そうしたら、告白された。
当然、私は誠也先輩が好きだから断ったけれど、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
暗がりで生きていた私だけれど、努力をすれば、光のある場所へとたどり着けるのだと。
勢いに乗った私は、勉強にも励んだ。
塾に行かず、毎日図書館に通い詰めて参考書とノートと向き合い、成績を伸ばした。
そして、念願かなって、先輩と同じ威武火県立大学の文学部に合格したのだった。
油断はあったが、驕りは無かった。
これからも私の快進撃は続き、そして、最終的には、あこがれの誠也先輩と結ばれる。
そんな運命を妄想し、先輩が所属するテニスサークルの扉を叩いたのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます