幼馴染と小休止
「幸ちゃんって私のこと好き過ぎるよね。愛されてるのは嬉しいけど、愛され過ぎるのも問題だってことを理解したよ」
「なんで気を遣ってやってのんに文句言われなくちゃなんねえんだよ。お前が妙なところで意地を張るのが悪いんだろうが」
帰宅して、購入した品々を収納して、最後に布団を敷いてその状態を確認して……そうやっている最中にも、二人の喧嘩(?)は治まらないでいる。
相手のことを思い過ぎて言い争うだなんて不毛の境地みたいなものなのだが、お互いに譲れない部分があるようだ。
「俺気を遣ってほしいところと、遣ってほしくないところ、色々真逆なんだよ。もうちょっと考えてくれって」
「考えるのは幸ちゃんも同じでしょ? 家主が寒い布団で寝てるっていうのに、私だけが温かい布団の中でぬくぬくできると思う?」
「その言葉、立場を変えてそっくりそのままお返しするよ。俺はあの布団に慣れてるけど、お前は違うだろうが」
険悪とはまた違うのだろうが、決して良好とも言えない雰囲気の中で言い争いを続ける二人。
幸太郎とかすみが二人してむくれて口を閉ざす中、不意に携帯電話の着信音が鳴る。
「店から? なんだよ、こんな時に……」
携帯に登録されている数少ない連絡先である、【いちご亭】からの着信を見て取った幸太郎が小さく呟く。
かすみの方を見てみれば、彼女は表情で「どうぞ」と電話に出ることを促しており、多少の腹立たしさを感じながらも幸太郎は素直に勤め先からの通話に出ることにした。
「はい、もしもし?」
『ああ、幸ちゃん! ごめんね、急に。今日の仕事のことなんだけど、このまま一日休みにしちゃって大丈夫?』
「えっ? 午後から店を開けるんじゃないんですか?」
電話をかけてきたのは、店主の博ではなくたま子の方だった。
会議が終わった午後から出勤するつもりだった幸太郎は、そのまま休んでもいいという彼女の言葉に驚きの反応を見せてしまう。
そんな彼に対して、たま子は詳しい事情を話し始めた。
『実はねえ、会議が終わった後でいつもの面子が盛り上がっちゃったみたいでね。夕方から貸し切って飲み会をするって話になったらしいのよ。会議に参加した人たちはお弁当を食べちゃったし、ピークタイムを過ぎたっていうのにわざわざ数時間だけ営業するのも面倒だからって、今日は商店街ののんべえたちだけを相手にしようってお父さんと話して決めたのよ』
「そうなんですか? だったら、俺も飲み会の料理を作るの手伝いますよ」
『いいのよ。そんなことしたら、酔っぱらった面倒な連中からやれかすみちゃんのことを聞かせろとか、ここに連れてこいとか言われて絡まれちゃうでしょ? 酔ったお客さんたちの中には面倒な人たちもいるし、そういう人たちから色々と聞かれても、迷惑なだけでしょ?』
「まあ、そうっすけど……」
たま子の言う通り、商店街の住人には酔うと面倒になる人たちが結構いる。
この一年でそういった酔っ払いの相手には慣れたつもりだが、かすみを巻き込んでの面倒事となるとうまく対処できる自信はない。
それに、万が一に店にかすみが呼び出された場合、彼女がセクハラの被害に遭う危険性もある。
酔っ払いどものべたべたと体を触られる幼馴染の姿を想像した幸太郎は、その光景に嫌悪感を抱くと共にそうならないための懸命な判断を下すことにした。
「わかりました。申し訳ないっすけど、ありがたくお休みを頂戴させていただきます」
『そうしてちょうだい。ああ、そうだ! 幸ちゃん、昨日あれを仕込んでたでしょ? 今のうちに店に来て、回収がてらかすみちゃんとお昼ご飯でも食べたらどうかしら?』
「あ~……じゃあ、そうします。甘えてばっかりですいません」
昨日の仕事中、合間合間に手を加えて仕込んでいたある物の存在を思い出した幸太郎が、たま子へと答える。
昼食もまだだったし、お言葉に甘えていちご亭で食事をさせてもらうことにした彼は電話を切ると、布団の上に寝転がって話を聞いていたかすみへと声をかけた。
「かすみ、昼飯食いに行こうぜ。いちご亭、今なら貸し切りだってさ」
「おっけ~。幸ちゃん、今日一日休みになったの?」
「まあな。つっても、今からどっか遊びに行くってのは無理そうだけどさ」
言い争いを中断し、普通の会話を始めた二人が出掛ける準備を始める。
お腹が膨れれば、自分たちの間にあるこの微妙な雰囲気もどうにかできるかもしれないと……そんなことを考えながら、幸太郎はかすみと共にいちご亭へと向かうのであった。
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あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いしますと言うと共に、申し訳ないんですが数日間正月休みをいただくので、更新をお休みさせていただきます!
まあ、正月休み(休みとは言ってない)って感じなんですけどね……
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