幼馴染とちょっとした喧嘩

「いやいやいや、なんで? どうして幸ちゃんが私にお布団を譲ろうとしてるわけ?」


「なんでって、そりゃこっちの台詞だろ。お前が使う物だから買いに来たんだろうが」


「違うでしょ? 幸ちゃんがお金を出すんだから、新しい布団は幸ちゃんの物! 私は幸ちゃんのおさがりを使わせてもらう! これが自然な形じゃん!!」


「逆だろ。俺が今まで使ってた物はそのままで、お前用の新しい布団を買った方が色々スムーズじゃねえか」


 事ここに至るまで、幸太郎もかすみも新品の布団は相手の物だと思っていたらしい。

 ここでようやく相手と自分の意見が食い違っていることに気付いた二人は、お互いに譲り合うように激しい言い争いを始める。


「仕送りが入ったら必要な物は自分で揃えるって昨日、言ったじゃん! 私のお布団は私が自分で買うよ!」


「そしたら、今、家にある布団はどうするんだよ? 一個余るんだったら、最初から新品をお前に渡した方が無駄がないじゃねえか!」


「無駄って言うんだったら、私のために使うお金がそもそも無駄じゃない! 居候の身分で家主よりいいお布団で寝るとか、流石に無理だって!」


「いきなりやってきて、なし崩し的に居候してる図太い人間が何を言ってやがる! いいから受け取っとけって! 男が女よりいい物使って寝るとか、そっちの方が無理だっつーの!」


「一緒の布団で寝ておいて手を出さない人間に男が女がって言われても説得力ないから! 幸ちゃんがお金を出すんだからお布団は幸ちゃんの物! 使うのも幸ちゃん! はい、決定!」


「俺が買った物をお前に渡す! これで何の問題もねえだろ!?」


「おおありです~! 受け取り拒否します~! こうなったらまた私の裸で言うことを聞かせるしか……!」


「おまっ! それは卑怯だろ!? っていうか、こんな場所でそんなこと言ってんじゃ――」


「ふふふふふふ……! あはははははは……っ!!」


 言い争いを続けていた幸太郎とかすみであったが、自分たちの声を掻き消すような昌子の笑い声を耳にして、揃って口を閉ざした。

 自分の方を見やる二人に笑みを向けた彼女は、若いカップルへと面白くて仕方がないという様子で言う。


「ごめんねえ! 新品の布団は自分の物だ! って言うならまだしも、譲り合って喧嘩とか面白くってつい、ね……!」


「うぅ、ん……」


「ん……」


 確かに傍から見たら随分と変な理由で喧嘩していたなと思った二人が恥ずかしそうに視線を逸らす。

 幸太郎とかすみの喧嘩が一時中断されたことを見た昌子は、二人へとこんな提案をした。


「もういっそ、新しい布団を二組買っちゃえば? 夫婦布団じゃあないけど、そういうセット品もあるし……安くしておくわよ」


「いや、でも……」


「あんな薄い布団じゃあ、幸ちゃんも疲れが取れないでしょ? 健康に過ごすための投資だと思えば、買い替えるのも悪くないんじゃない?」


 自分の提案に対して微妙な反応を見せる幸太郎をそう説得した後、昌子はかすみの方を向き、彼女へと言う。


「で、お金が入ったらかすみちゃんは幸ちゃんに半分の代金を支払う。これでお互いの不満というか、懸念点は解決でしょう? 二人とも、これでどう?」


「……まあ、俺はどっちでもいいですよ」


「私も、幸ちゃんがいいっていうならそれでいいです」


 決まりね、とばかりに手を叩く昌子。

 笑みを見せる彼女は、提案を承諾しながらもどこかぶすっとしている二人へとこう続ける。


「じゃあ、用意するわね! 二人分のお布団、持って帰れる? 大丈夫そう?」


「う~ん……ちょっと厳しいかもっす。流石に二人分は無理かな……?」


「じゃあ、うちの人が帰ってきたら車で配達させるわね! お会計だけ先に済ませちゃいましょう!」


 なんだか昌子に上手く乗せられてしまった感があるが、彼女のお陰で余計な喧嘩が収まったことも事実だ。

 想定よりもお金を使うことにはなったが、想像以上に安く二人分の布団を購入できたというどう反応すればいいのかわからない状況に直面した二人は、その後も買い物を済ませると一旦荷物を置くために帰宅するのであった。

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