幼馴染と布団を買いに行こう
「すいませ~ん。昌子さん、いますか~?」
「はいは~い! 今、そっちに行きますよ~!」
程なくして、かすみと共に商店街の寝具店にやってきた幸太郎は、店番をしているであろう女性を呼んだ。
バタバタという足音と共にやってきた中年の女性は、幸太郎とかすみの二人を見て、嬉しそうに笑う。
「幸ちゃん! 彼女さんと同棲を始めたって本当だったのね~! ウチの人から聞いてたけど、わざわざ紹介しに来てくれるだなんて嬉しいわ~!」
「はじめまして! 幸ちゃんの彼女で同棲相手の草鹿かすみです! 以後、よろしくお願いします!」
「乗るな! 違いますからね? 同棲相手ではありますけど、恋人じゃあないですから!」
自分で言っておいてなんだが、これって大分妙な話だなと思う幸太郎。
付き合ってもいない異性と同棲する方が不自然だろうとは思いつつも、実際に付き合っていないんだからしょうがないじゃないかと自分に言い聞かせた彼は、妙な流れを断ち切るべく昌子へと言う。
「今日は普通に買い物に来ただけですから。挨拶とかじゃないっす」
「まあ! そうよねえ! 女の子と一緒に住むんだったら、新しいお布団が必要よねぇ! わかったわ! おばさん、幸ちゃんとかすみちゃんのためにサービスしちゃう!」
「わ~い! ありがとうございます!」
……本当に自分たちは恋人ではないと昌子はわかってくれているのだろうか?
多分わかっていないのだろうが、その誤解を解くのも面倒だ。
というわけで、ありがたく彼女のご厚意に甘えることにした幸太郎とかすみは、店の中の商品を見ていくことにした。
お目当ては当然、布団セット一式だ。
「敷布団から掛布団、タオルケットに毛布……全部揃ってるのがいいよね!」
「あとは枕な。お前が使わないっていうならそれでもいいけど」
「あっ、確かに! それを忘れてた! 流石幸ちゃん、しっかりしてる~!」
必要な物を一つ一つ見ていくより、全部揃っているものを買ってしまった方がいい。
大体の場合、そっちの方が安く済むし、色々と悩まなくて楽だ。
という感じで幾つかの候補を搾りつつ、二人はそこから更に吟味していく。
「サイズは大きい方がいいよね? 大は小を兼ねるって言うじゃん!」
「あ~……? まあ、値段も少ししか変わらねえし、そこをケチる必要もねえか……」
「や~りぃ! やったね幸ちゃん、これで寂しい時には二人で寝られるよ!」
「寝ねえし、人前で誤解されるようなこと言うんじゃねえ! 何度言ったらわかるんだよ、お前は……!!」
「ふふふ……っ! いいわねえ。本当に、同棲を始めたてのカップルって感じがするわ!」
あまりに恥ずかしいやり取りを聞かれた幸太郎が苦々し気な表情を浮かべながら顔を赤くする。
少しは考えて発言してくれと思いながら、かすみが自分の言うことを素直に聞いてくれるような人間じゃあないと思い直した彼は、さっさと買い物を済ませることが一番被害が少なくなる道だと判断したようだ。
「これ! こいつでいいな、かすみ!?」
「えっ? あ、う、うん。幸ちゃんがそれがいいって言うなら、私は別に……」
候補の中にあった布団セットの内、適当にサイズが大きめなものを選んだ幸太郎が半ばヤケクソ気味にかすみへと言う。
その勢いに圧倒されたのか、若干ためらいがちになりながらも彼女が頷いたことを確認した幸太郎は、昌子へと会計を頼んだ。
「つーわけだから昌子さん! これ、お願いします!」
「はいはい、わかりましたよ。ちょっと待っててね~……」
陳列されている布団セットを引っ張り出し、会計の準備を進めていく昌子。
財布を取り出し、値段を確認して、すぐにお金を払えるように準備していた幸太郎であったが、そこでかすみの表情が浮かないことに気付いた。
「……なんだ? あれじゃ不服か?」
「いや、そういうわけじゃないけど……本当にあれでいいの?」
「はぁ? お前もあれでいいって言ったじゃねえか」
「そうだけどさ。あのお布団、ピンク色だよ?」
「……わかりやすくていいと思ったんだけど、お前、ピンク嫌いか?」
「え? ん?」
「は……?」
……何か会話が噛み合わない二人が、互いに首を傾げながら相手を見つめ合う。
その会話を聞いていた昌子はふとあることに気が付くと、幸太郎とかすみへとこんな質問を投げかけてきた。
「ねえ、質問なんだけど……この布団を使うのって、どっちなの?」
「え? そりゃあ――」
「決まってる、よね?」
そう言いながら顔を見合わせた二人が、お互いに相手を指差す。
そして、自分を指差す幼馴染の姿を見た後、そろって「はぁ?」という表情を浮かべてから話をし始めた。
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