幼馴染と抱き締め合って眠る

「えっ……?」


 想像もしていなかったかすみの答えに、幸太郎が目を見開いて呟く。

 彼の反応に僅かに笑みを浮かべたかすみは、淡々とした口調で話を続けていった。


「幸ちゃんにね、知ってほしいんだ。私はまだ、綺麗なまんまなんだよって。汚れてなんかないんだよって……そのことを、証明したいの」


「俺はお前のことを疑ってなんかねえよ! そんなことで焦る必要なんて――!!」


「わかってる、わかってるよ。幸ちゃんは優しいし、私のことを信じてくれてる。でも、言ったでしょ? 証明して、んだって……!」


「っっ……!!」


 搾り出すようなその言葉を受けた幸太郎が、はっと息を飲む。

 ゆっくりと顔を上げ、再び彼と見つめ合うようになったかすみは、目に涙を浮かべながら彼へと言った。


「ごめんね、ズルい女で。住むところやご飯だけじゃなくて、安心まで幸ちゃんからもらおうとしてる。幼馴染を利用しっぱなしの、嫌な女だよね……」


「……!」


 そうじゃないと、言ってやりたかった。そんなことないと言ってやるべきだと思った。

 だが、そんな言葉だけでは今のかすみを励ますことなんてできないと理解している幸太郎は、ぐっと声を詰まらせた後に口を開く。


「何か、あったのか? お前をそんなに怯えさせる、何かが……?」


「………」


 その問いに対して、かすみは何も答えない。頷きもしないし、顔を伏せて視線で何かを悟らせようともしない。

 だが……幸太郎には、その反応だけで十分だった。

 かすみが何かに怯え、恐怖していることを理解した彼は、俯く彼女へと両手を伸ばし、その小さな体を抱き寄せる。


「えっ……? 幸、ちゃん……?」


「……俺には、お前に何があったのかとか、お前が何に怯えてるのかなんてわかんねえよ。でも……手を出さなくっても、お前を安心させることくらいはできる」


「……っ!!」


 強く、彼女の体を抱き締める。自分の腕の中にすっぽりと納まってしまうくらいに小さな幼馴染に、心臓の鼓動と温かさが伝わるように。

 傍にいる、離さない。もう、怖がらなくていい……その想いを口には出さず、行動で伝える幸太郎は、かすみの背中に回した腕に一層力を籠め、彼女を抱き寄せながら言った。


「怖いなら最初からそう言え。変に回りくどいことなんてすんな。いつだって、何度だって……安心させてやるから」


「……うん」


 するりと、小さな手が幸太郎の背中に回っていく。

 最初は遠慮がちに回されていたその腕に、段々と力が込められていくことを幸太郎が感じる中、自分の腕の中に体を収めたかすみが静かに呟いた。


「……幸ちゃん」


「……なんだよ?」


「……大好き」


 ただそれだけを呟いた後、かすみがゆっくりと目を閉じる。

 怯えから解き放たれた、安らぎに満ちたその顔を見つめながら……幸太郎もまた、静かな声で彼女へと囁くのであった。


「……俺もだよ」

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