幼馴染と布団について話し合おう

「あ~、確かにそうだね。もう一人分は必要だ」


 幸太郎の意見に同意しつつ、腕を組んでふんふんと頷くかすみ。

 ここの部分は納得してくれて助かると安堵する幸太郎へと、彼女がこう続ける。


「昨日はありがたく使わせてもらったけどさ、そのせいで幸ちゃんが床で寝ることになっちゃったもんね。それを避けるためにも、早めにお布団を用意しなくちゃ」


「まあな……一日二日なら気にしねえけど、流石にこれが長く続くと俺もしんどいわ」


 現状、幸太郎の家には布団が一組しかない。

 寝れればいいとばかりに適当に用意した安いせんべい布団ではあるが、あるとないとでは眠り心地や疲労の取れ具合が大きく違ってくる。


 昨日は移動の疲れもあり、幸太郎の言葉に甘えて布団を使わせてもらったかすみであったが……改めて考えた時、自分を養ってくれている彼に申し訳なさが募ってきた。

 仕事をしている幸太郎には少しでも疲れを取ってほしいし、自分のせいでその機会が奪われるのも忍びない。

 というわけで、一刻も早い布団の購入を決定した二人は、そのまま予定を確認し始めた。


「幸ちゃんの言う通り、早めに買わないとマズいよね? 次のお休みに買いに行っちゃおうよ」


「だったら明日だな。おやっさんとおかみさんが商店会の定例会に参加するから、午前中は完全にお休みなんだ」


「おっ、ナイスぅ! じゃあ、明日はお買い物デートだね! えへへ~……楽しみ!」


 布団なんて重い物を購入するのなら通販サイトを使った方がいいのだろうが、幸いにも近くには商店街がある。

 当然ながらその中には寝具店もあるわけで、顔なじみのお店に行けば割引してもらえるということを考えれば、そっちで買った方がお得になるだろう。


 というわけで、明日の午前中に布団を買いに行くことを決めた二人は、それに備えて早めに休むことにした。

 使った食器類を洗い、ちゃぶ台を片付けて、布団を敷いたところでかすみが言う。


「じゃあ、今日は幸ちゃんがお布団を使ってよ。私が床で寝るからさ」


「は? 気遣いなんてすんなよ。あと一日くらいなら我慢できるし、お前が使えって」


「だめ! 昨日は私だったんだから、今日は幸ちゃんの番! それでイーブンでしょ?」


「イーブンって言われてもな……男にはプライドがあるんだよ。女を床で寝させて、自分は布団でいびきかくわけにもいかねえだろ?」


 本日の布団の使用権を相手へと譲り合う幸太郎とかすみ。

 (譲り合ってはいるのだが)お互いに譲れないものがある二人は、相手に布団を使わせようと必死だ。

 このままでは硬直状態になると判断したのか、大きく息を吐いたかすみが幸太郎へとこんな提案をする。


「わかった。折衷案でいこうよ。今日は幸ちゃんと私が一緒にこのお布団を使う、これでどう?」


「これでどう? じゃねえよ! 一番だめなパターンだろ、それ!?」


「どうして? これならお互いの要望が叶うじゃん!!」


「そうかもしれねえけど、一緒の布団で寝るって、お前……!!」


 一組しかない布団に二人で入れば、確かにどちらかが床で寝るという事態は避けられる。

 しかし、そのために同衾するだなんてのはおかしいだろうとツッコんだ幸太郎は、うんざりした様子で頭を掻きながらかすみへと言う。


「あ~、もう話は終わり! 布団はお前が使え! わかったな!?」


「あっ!? 幸ちゃん!!」


 毛布だけを手に取り、布団から離れた位置に陣取って寝転ぶ幸太郎。

 ここからは梃子でも動かないぞと行動でアピールした彼は、かすみへと布団を指しながら言う。


「ほら、使え。言っとくが、お前が使わなくっても俺が使うことはねえからな?」


「ふ~ん……? そうくる? わかった。幸ちゃんがその気なら、私も奥の手を使うよ」


「あん……?」


 体格差と男女の力の差を考えれば、かすみが幸太郎を強引に布団に押し込むというのは不可能だ。

 こうして自分が布団から離れて陣取った時点で勝敗は決したと考えていた幸太郎であったが……そんな彼の前でむくれたかすみが意味深なことを言う。


 何か嫌な予感を覚える幸太郎の前で仁王立ちした彼女は、そのまま自分が履いているパジャマのズボンを一気にずり下ろしてみせた。


「ぶっ!?」


 視線を逸らす間もなく、幼馴染が目の前で脱衣する姿を目撃してしまった幸太郎が盛大に噴き出す。

 白色の、リボンとレースで飾られたかわいらしい下着を堂々と見せつけるかすみは、そんな彼へと最強のカードを切り、交渉を開始した。


「幸ちゃんが布団を使うって言うまで、このまま服を脱ぎ続けるから! 言っとくけど、私は本気だよ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る