幼馴染と共同生活の相談
「いい人たちばっかりだったね~! 幸ちゃんもかわいがってもらってたし、安心したよ!!」
「お前なぁ……! こっちはからかわれっぱなしで大変だったんだぞ? 少しは俺の身にもなれって……!」
「幸ちゃんがそれほど愛されてるってことだよ! やったね!!」
時間が過ぎて、夜。銭湯で風呂を済ませてから帰宅した幸太郎とかすみは、いちご亭から持ち帰ってきた料理で少し遅めの夕食を取っていた。
ご飯やスープ、主菜を軽く温め直しただけの食事ではあるが、普段と少し違う味がしているような気がする。
その理由が、ちゃぶ台を挟んで向かい側に座る幼馴染の存在にあるのだろうと考えながら、幸太郎はかすみへと言った。
「このテーブルだと少し狭いな。落とさないように気を付けろよ」
「一人用のちゃぶ台だもんね。二人だと結構キツキツだ」
これまたいちご亭から貰ってきた茶碗とお椀が二人分と、主菜を乗せた大皿が一つ。
たったそれだけでスペースがほとんどなくなってしまうちゃぶ台のサイズに苦笑を浮かべる二人。
まあ、二人で使えなくもないが、もうちょっと余裕がほしいよなと考えた幸太郎がぼそりと呟く。
「……家具とか、少し見直してみるか。一人用のだと不便なのもあるかもしれないし」
「えっ!? いいの!?」
「いいもなにも、一緒に生活するんだからその辺のことは考えておいた方がいいだろ? いつまで居候するつもりなのかはわかんねえけどさ……」
昨日、かすみが家に転がり込んできた時は色々と落ち着いていなかったために考えが回らなかったが、改めて振り返ってみると問題点が浮き彫りになってくる。
このちゃぶ台もそうだし、服をしまうための収納スペースなんかもそう。
幸太郎の一人暮らしに合わせた諸々の家具やら仕組みやらにかすみという存在が加わると、変えなければいけない部分が数多く見つかってくる。
「服も最低限下着くらいは別々にしまわねえとな。そのための収納家具が必要だ」
「えっ、私は別に気にしないけど? お気に入りの下着しか持ってこなかったし……」
「俺が気にするんだよ、馬鹿が!!」
「そんなに変なパンツとかなかったじゃ~ん! 普通だよ、普通!」
「そういう意味じゃねえ! っていうかお前、わかって言ってんだろ!?」
着替えるために収納棚を開けたらそこにかすみの下着が入ってましたなんて展開に直面したら、面倒くさい事態に繋がることは目に見えている。
そういった同居生活で起きるかもしれないトラブルを回避するための備えはできる限りやっておきたい。
「服を分けるための収納家具に仕切り用のカーテンだろ。あとは何が必要だ……?」
今朝は幸太郎が仕事だったのでかすみが起きる前に着替えを済ませたが、逆に彼女が早起きしたりして着替えをする可能性だってある。
そういう時に仕切りは作っておくべきだろうとか、他には何が必要だろうかと考える幸太郎へと、かすみが言う。
「……いいの? 幸ちゃんだってそこまで生活に余裕があるわけじゃないでしょ? 私のためにお金使ったりして……」
「今さらだろ? お前だって困ることが多いんだし、仕方ねえよ」
「それはそうかもしれないけどさ……困るの、私だけじゃん。ぶっちゃけ、しまってあるパンツとかブラジャーとかを見たり、私の着替えを覗けたりするのって、ラッキースケベの範疇でしょ? それをわざわざお金をかけてまで変える必要、幸ちゃんにはないじゃん」
自身が恥を掻くことを踏まえた上で、それよりも幸太郎の財布を痛めることの方が嫌だとかすみが言う。
今回はおふざけやからかいで言っているのではなく、本気で申し訳なさを感じている様子の彼女はやや俯きがちになりながらこう続けた。
「これでも本当に悪いと思ってるんだよ? 突然転がり込んだ上にご飯食べさせてもらって、お風呂とかのお金も払ってもらっちゃってさ……今さらだって幸ちゃんは言うけど、やっぱりそこまではしてもらえないって」
「………」
かすみにも、思うところがあるのだろう。なんでもかんでも幸太郎頼みになるのは悪いと思ってはいるようで、自分のためだけに彼にお金を使ってほしくはないようだ。
一応、幸太郎自身の精神衛生上の問題を解決するためという部分もあるのはあるが……少し気を遣えばどうにかできる問題でもある以上、その理由だけでかすみが納得するとは思えなかった。
「その辺の問題に関しては仕送りが入ったら私がどうにかするよ。自分の力で、って言っていいのかわからないけどさ」
「……わかった。お前に任せる」
「ありがとう。あと、家賃の他に食費とかも渡すからさ。どのくらい渡せばいいのか、今度教えてね」
幸太郎自身も言いたいことはあったが、かすみの気持ちを優先することにした。
同時に、これが同棲の難しいところかと共同生活を営む上で意見を擦り合わせていくことの重要性を強く実感する。
一応、幸太郎が出したルールには従うという同居にあたってのルールは制定したが、それだけで全てを解決できるわけではない。
かすみも納得した上で、決まり事を設定していかないとだめだなと考えた幸太郎は、そこではっとすると共に彼女に言う。
「なあ、かすみ。一つだけ、どうしてもすぐに買いたい物があるんだ」
「え? なぁに……?」
お箸を咥えたまま、きょとんとした表情を浮かべて首を傾げるかすみ。
そんな彼女のことをちょっとかわいいなと思いながら、不躾な感想を心から排除した幸太郎が答えを告げる。
「布団だよ、布団。流石に一つだけじゃマズいだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます