幼馴染、家に襲来!

「おっじゃまっしま~すっ!」


「お、おう、いらっしゃい……」


 それから程なくして、かすみを伴って自宅であるアパートへと帰ってきた幸太郎は、今さらながらも女の子を自宅に招き入れるという状況に緊張を覚えていた。

 しかも、これから五年ぶりに再会した幼馴染と二人で暮らしていくことになるのだと、改めて考えるとラブコメ漫画としか思えない突然の展開に緊張を高める彼へと、部屋に上がったかすみが声をかける。


「おお~っ! ちょっとびっくり! 家賃一万円って聞いてたけど、普通にいい部屋じゃん!!」


「ああ……ここ、おやっさんから紹介してもらった部屋なんだよ。色々融通を利かせてもらって、家賃も安くしてもらってる」


 一人暮らしを始める際、市古夫婦には本当に世話になった。

 祖父の古い友人とのことだが、ここまで良くしてもらって申し訳ないと思ったくらいだ。


 その恩を返すために頑張って働き続けてもうそろそろ一年。思えば色んなことがあった。

 ……まあ、その全部が本日の出来事に比べればどうってことないことのように思えてしまうのだから、やはり幼馴染との再会といきなりの同棲生活の始まりは相当にすごいことなのだと思う。


「荷物、適当に置いてくれ。次の休みに収納スペースを整理するから、そしたらそこにしまうように」


「ほ~い! ……ちなみに下着類なんかも結構持ってきてるんだけど、見たい?」


「見るか、ボケ! 家に来て早々、何言ってんだ!?」


「いいじゃん、これから飽きるほど見ることになると思うしさ~! それより、えっちな本はどこに隠してるの? この本棚とか!?」


「あっ、馬鹿っ! そこは――!!」


 部屋について早々、やりたい放題なかすみに手を焼く幸太郎。

 同棲生活が始まることにテンションが迷子になっている彼女は、ほとんど何もない部屋にある唯一の家具である小さな本棚へと目を付けると、そこを漁り始める。


「ほほう! レシピ本に食品衛生とか栄養学に関する本……! カバーで中身をごまかしてるってこともないね、残念」


「なんで残念なんだよ!? ったく、何もないからそれ以上漁るのは止めにして――」


「おろ? なんだ、これ……?」


「げっ……!?」


 本棚にしまってある本の数々をチェックした後、最後に手に取ったファイルを開いたかすみがしげしげとその中身を観察する。

 それだけは見られたくなかったと思いながらも観念した幸太郎へと、振り返った彼女が声をかけた。


「幸ちゃん、これって……?」


「……見ての通り、お前から送られてきた手紙だよ」


 中学二年生の頃にかすみが引っ越した後、暫く続けられていた文通。

 彼女から送られてきた手紙を大事に保管していた幸太郎は、一人暮らしを始める際にそれを実家から持ち出していた。


 よりにもよってそれを文通の相手であったかすみに見られてしまうだなんて……と恥ずかしがりながらも、開き直った彼は声を大きくしながら唸る。


「ルールその二、勝手に俺の部屋を漁るな……! わかったな?」


「は、はいっ! わかりました!」


 びしっ、と敬礼のポーズを取って応えるかすみへと、ならば良しとばかりに頷く幸太郎。

 とんだ赤っ恥を晒す羽目になったと思いながら自身の荷物を床に置く彼へと、懐かしそうな声でかすみが言う。


「それにしても懐かしいな~! ……引っ越した後もいっぱい手紙を送ってくれたよね、幸ちゃん」


「お前が送ってくるから返事を書いてただけだ。今の時代、スマホがあるんだから手紙でやり取りする必要なんてないのによ……」


「それでも、幸ちゃんはずっと付き合ってくれたじゃん。私、すっごく嬉しかったよ」


「……そうかい」


 ぶっきらぼうに言い捨てる幸太郎だったが、実のところは彼もかすみと同じ気持ちだった。

 手書きの文章でのやり取りはメールだとわからないかすみの温もりや心が伝わってくるような気がしたし、手紙を大事に保管しているのもその頃の思い出を大切に想っているからだ。


 そういえば……とそこまで考えたところであることを思い出した彼は、かすみへとこんな質問を投げかける。


「とか言ってるけどよ。お前、途中で手紙書かなくなっただろ? 高一の冬か高二の春くらいか? その頃から電話にも出なくなったよな」


「あ、ああ~……ごめんごめん! その辺りから色々と忙しくなってきちゃって……」


「まあ、そんなことだろうと思ったよ。むしろよくもまあ二年半も続いたなって感じだ」


 転校直後や受験シーズンの時はそうでもなかったが、高校生になればかすみだって新しい友人ができただろう。

 そこからずるずると惰性で自分とのやり取りを続けていたが、一年も経つ頃には幸太郎よりも高校の友人を優先するようになって当然だ。


 それに……もしかしたら彼氏ができた可能性だってある。

 彼女が異性の幼馴染と定期的に手紙のやり取りをしているだなんて、どんな男だって嫌だろうし、そういった事情もあって自分と連絡を取らなくなったかもしれないなと考えた幸太郎は、ズキンと響いた胸の痛みをごまかすようにかすみへと声をかけた。


「後でおじさんたちに連絡するからな。お前が嘘を吐いてるとは思ってねえけど、ちゃんと報告しておくべきだろ」


「そうだね。幸ちゃんの言う通りだ」


「それと、家賃だけど……お前、払えるか? 無理だってんなら猶予をやるから、その間にバイトでも見つけて――」


「その件、なんだけどさ……こういう払い方じゃ、だめ?」


「あ……?」


 トーンが落ちた声を訝しんで振り返った幸太郎の前で、かすみが自分の着ている服へと手を伸ばす。

 上着を脱ぎ、その下に着ているシャツのボタンを外した彼女は、白い下着に覆われている大きな胸を恥ずかしそうに強調しながら幼馴染へと言う。


「家賃、体で払うからさ……私のこと、好きにしていいよ」


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