49 終焉
(ここから53話まで一気に更新です)
兄が名前を告げた途端、父は飛び起きました。そして、兄から離れようと壁際に寄りました。
「久しぶりだな、父さん」
「どうして……伊織がここに?」
「いい弟を持ったよ。瞬がな、引き合わせてくれるって、計画してくれてたんだよ」
兄は全てを打ち明けました。僕が高校生の頃から見張っていたということ。僕を犯したということ。それから兄弟の関係が続いていたということ。
「ずっと会いたかったよ、父さん」
そして、兄は父を殴りました。
「父さん言ってたよなぁ! これはしつけなんだよ!」
僕も暴行に加わりました。二人がかりでやったので、すぐに大人しくなりました。僕は言いました。
「本当にいい兄さんなんだ。僕、五人殺したんだけどね。埋めるの手伝ってくれた。これ、僕のコレクション。見る?」
僕は被害者たちの髪が入った袋を見せつけました。そして、青木さんのメガネも。
「五人目は青木さんだったんだ……」
「青木も……?」
「そう。下手だったから、腹が立っちゃって。じっくり苦しめて殺したよ」
父はガタガタと震えだしました。
「許してくれ、許してくれ、伊織、瞬」
兄がもう一発殴りました。
「遅いんだよ。バーカ。瞬、俺が抑えとく」
「わかった」
僕は父をベッドから蹴落とし、ビニールテープで腕と足を縛りました。口にはタオルをかませて喋れなくさせました。兄は言いました。
「信じられねぇようだったら、ちゃんとこここでやってやるよ」
そして、いつものことを見せつけました。僕は大きな声で喘ぎ、兄のことを呼びました。時々チラリと父と目を合わせ、口元を歪ませて笑いました。
「……聞きたいことが、あるんだよ」
兄はタオルを外しました。
「会いに来る気なんてなかったくせに、どうしてあんな約束をした? 俺、ずっと待ってたんだよ」
「守るつもりだった……瞬が生まれて、のめり込んだ……過去のことは、消したかった……」
それが父の答えでした。もう一度、僕たちは父を殴りました。息も絶え絶えになったところで、ビニールテープを外し、ベッドの上にあがらせました。僕はにっこりと微笑んで尋ねました。
「父さん、男としたことある? ないよね。兄さんが、教えてくれるって。僕の時のように」
兄は容赦なく父を突き刺しました。父は大声で叫び、ひたすら許しを請いました。
「瞬、口に突っ込めよ」
僕は最初、加わるつもりはなかったんですけどね。兄が言うのなら、とそうしました。
「父さん、ちゃんと飲んでよね。こぼさないで」
父は僕の言う通りにしてくれました。なので頭を撫でました。
「ふぅ……次、瞬な」
僕も父を犯しました。血と精液でドロドロになっており、正直気持ちのいいものではありませんでしたが、父が涙を流しながら苦しんでいるのを見て、吐き出しました。
「痛い……痛い……」
父が身体をぐっと曲げて震えるので、僕と兄は声をあげて笑いました。
そして、僕は告げました。
「父さんが兄さんに向き合わなかったせいだよ。父さんは、もうここで死ぬんだ。でも、僕は優しく育ったから、選ばせてあげる。僕と兄さん、どっちがいい?」
長い長い沈黙の後、父は言いました。
「……瞬」
僕は父にキスをしました。
「大丈夫。もう六人目なんだ。そんなに苦しませずにやってあげる。ああ、最後にタバコ吸いたいよね。一本あげる」
僕は父にタバコをくわえさせました。そして、自分のタバコに火をつけてくわえ、父のタバコに近づけました。シガーキスです。父のタバコが尽きるのが、カウントダウンでした。
「さようなら。愛してるよ、父さん」
僕は一気に絞めました。父の目がカッと開き、黒く淀み、くたりと腕をおろしました。終焉です。
「あはっ、あははっ」
やっと終わった。僕がこの手で終わらせた。僕はしばらく笑いが止まりませんでした。兄に身体を揺さぶられ、ようやく我にかえりました。兄は呟きました。
「父さん……父さん……最後まで、俺を選んでくれなかった……」
兄は父の骸にすがりついて泣きました。僕はタバコを吸いながら、その様子を眺めていました。
もし、父が兄を選んでいたら、どうなっていたのでしょうか。兄のことです。殺せなかったかもしれません。だから、僕でよかったんだと思います。
兄はいつまでも父を抱き締めていました。気が済むまでそうさせてやろうと思い、僕は汚れたシーツもいとわずベッドに寝転がりました。
どれくらいの時が過ぎたのでしょうか。兄が僕に覆い被さり、キスをしてきました。
「……これで、本当に終わりだな」
僕は兄の瞳を見つめました。何も言わなくても、僕たちはわかっていました。これが最後だからと、熱く交わりました。
服を着て、玄関を出る時に、もう一度キスをしました。
「瞬、愛してるよ」
「僕も愛してる、兄さん」
「さあ、行こうか」
そこから先は、記者さん。世間の方々がよくご存知の通りですよ。
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