46 卒業
卒論の諮問が終わりました。これで晴れて卒業できます。ゼミの皆で打ち上げをしました。教授も、例の告白してきた女の子も一緒です。
大学近くの居酒屋。よく団体で利用していたところです。ここに来ることももうないと思うと、さして美味しくもない鶏の唐揚げが貴重に思えました。
ショットバーで年上の方々と飲むことが多かったですから、最後の学生ノリには辟易しました。カラオケに行こうと誘われたのです。
僕は音楽に疎いんです。好きな曲やアーティストもありません。どうかマイクを回してこないでくれ、それなら行くからと前置きをして、彼らについていきました。
カラオケ自体に来たのも初めてでした。大人数だったので、パーティールームに通されました。隣に例の女の子が座りました。高音の曲もそつなく歌いこなしていました。誰の曲なのかわかりませんでしたが。
僕はドリンクバーを行ったり来たりしながら、ひたすら彼らが盛り上がるのをどこか冷めた目で見ていました。
事件が明るみになれば、彼らは僕のことをどう思うのだろう。インタビューされたりするのかな。どう答えるんだろう。そういうことを考えていました。
「瞬くん、元気ない?」
例の女の子に聞かれました。
「ちょっと眠くなっちゃって」
それは本当のことでした。深夜のフリータイムで入っていて、朝までいることになっていましたから。
爆音が響く中、それでも睡魔には勝てず、こっくりこっくりと座ったまま寝てしまいました。気付けば、僕の頭は女の子の太ももの上にありました。
「あ……瞬くん、おはよう」
「お、おはよう」
他の奴らもつぶれていました。アーティストの新曲紹介がテレビで流れ続けていました。起きているのは僕たち二人だけでした。
「ごめんね、瞬くん体勢辛そうだったから」
「僕こそごめん」
一度振った相手です。気まずくて仕方ありませんでした。女の子は言いました。
「好きな人がいるのは知ってる……でもやっぱり、思い出ほしい」
当時の僕は、兄との思い出を作ることに必死になっていましたから。女の子の気持ちはわかりました。でも、僕はじきに、殺人犯として報道されることになるのです。
「ダメだよ。きっと後悔する」
そう言って諦めさせました。あの時の女の子はどうしているでしょうか。僕の本性を知って、思い出なんてなくて良かったと安心しているでしょうか。
疲れてフラフラになった身体で、兄の元へたどり着きました。兄は目覚めたところで、食パンを食べていました。
「おかえり、瞬。オールだったんだな」
「ああ、僕連絡してたよね。カラオケだって」
僕はシャワーを浴び、ベッドに横になりました。すぐに兄が包み込んでくれました。
「お疲れさん。大学の友達とは楽しめたか?」
「うーん、そこそこ」
僕はすぐに眠ってしまいました。兄がずっと髪を撫でていてくれたことをうっすらと覚えています。
思っていたよりも、沢山の友人ができました。一年生の頃は一人で過ごし、それが快適だと感じていたのに。
本当に充実した四年間でした。諮問の結果も問題なく、無事に卒業式を迎えました。
卒業式の日は、着飾った女の子たちと写真を撮りました。袴姿というのはいいものですね。
謝恩会には行きませんでした。とてもそんな気分にはなれなかったのです。僕は内定こそ決まりましたが、働くことはないのです。それが気まずかったのです。
その代わりに、兄とたっぷり愛し合いました。僕が卒論に必死だったことを兄は見ていましたから、褒めてくれました。
「本当に頑張ったな。卒業おめでとう、瞬」
兄からの言葉が何よりも嬉しくて、僕は抱きつきました。そして、残りの時間はじりじりと迫っていました。
僕の覚悟は決まっていました。もうあの計画を変更する気はありません。それを実行することを支えにこれまでやってきたのです。
どうせ自首するのですから、卒業してもほとんど意味がありませんでした。でも、四年間のけじめをつけたかったんです。
僕は自分から兄に鞭をお願いしました。身体に痕を刻まれたかったのです。ひりつく痛みに耐えながら、これまでの日々を思いました。
「鞭で打たれたいなんて、とんだ変態だなぁ瞬は!」
兄の罵倒が心地よく響きました。僕は叫びました。
「もっと、もっと!」
兄は手をゆるめることはありませんでした。僕がいつまで経っても音をあげないので、途中で打ちきることにしたようです。
「俺がしつけといてなんだけどよぉ……瞬ってマジで淫乱だよな」
僕はにんまりと笑いました。快楽の海に溺れたその時から、僕は自分がそうであることを認めていました。
追撃を加えるかのように、兄は僕のお尻を掴んで挿入し、激しく動かしました。兄に満たされ、僕は甘い声を出しました。
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