40 青木幸三
お酒なら僕の部屋にありますからと、真っ直ぐに帰りました。青木さんは、その時既にかなり酔っていた状態で、僕の部屋に連れ込まれたということをあまり理解していない様子でした。
押せばいけるな、と確信していましたから。僕は青木さんにしなだれかかって甘えました。
「どうした、瞬くん……」
「僕、青木さんみたいな人好みなんですよね」
もちろん嘘です。青木さんのような冴えないオジサンというのは別に好きではありませんでした。父の友人だから。それだけが理由でした。僕はむさぼるようにキスをしました。
「男とは初めてですか……? 教えてあげますよ」
お酒の力が強かったのでしょう。青木さんは流されてくれました。最初は僕に戸惑っていた手つきも、僕が服を脱いでしまうと、獣のように肌をあさるようになり、鼻息を荒くしながら飛び付いてきました。
下手くそな口の動きにも、感じているフリをしてやりました。そして、僕は四つん這いになって挿入させました。青木さんのお腹があたり、たぷん、たぷん、と音がしました。
子供が二人もいる割には、上手くないな、というのが感想でした。ご無沙汰だったのでしょうか。
行為が終わるとすぐに青木さんは寝てしまい、僕は一人でタバコを吸いながら夜を明かしました。一緒のベッドで眠りたくなかったんです。
青木さんが目を覚ましたので、僕は聞きました。
「友人の息子とした感想、いかがですか」
青木さんはしきりに謝ってきました。
「すまん。すまんかった。どうかしていたんだ。許してくれ。今回のことはなかったことにしてくれ」
つまらない反応でした。僕は冷ややかな視線を浴びせかけました。
「そうはいっても、もうしてしまったんですよ。責任、取ってくださいよ」
僕から誘ったことなど棚にあげて責めました。またキスをして、青木さんの意識がハッキリしている中でもう一度やりました。二回目も、気持ちよくはなかったです。
行為の最中、青木さんのスマホがうるさく振動していました。奥さんからの着信のようでした。やはり、真面目な方だったんですね。家族に何も告げず帰らないような人ではなかった。
終わって、仰向けに寝転がり、ぐったりしている青木さんの頬を撫でました。ヒゲは伸びており、カサカサとしていました。
「ねえ、青木さん。聞いてほしい話があるんですよ」
僕は語りかけました。
「僕、うずくんです。人を殺さないと治まらないんです。今までに四人殺しました。いい兄を持ちましてね。一緒に埋めてくれたんですよ。それでね、今も、うずくんです」
青木さんは逃げ出そうとしたのか、窓を開けようとしました。僕は後頭部を殴りました。若い男の力です。オジサンなんかが勝てるはずがありません。ボコボコに殴ると、大人しくなってくれました。
「家族が……いるんだ……」
絞り出すような声でそう言いました。
「僕にもいますよ」
そして、首を絞めました。わざと苦しませました。僕の腕には引っ掻き傷がいくつもできました。じわじわとその命が尽きていく様を、僕はしっかりと目に焼き付けました。
青木さんの白髪を切って袋に入れ、名前を書こうとしたのですが、彼の下の名前を知らないことに気付きました。財布から免許証を取って調べました。
僕は兄を呼びました。またやってしまったと。兄は僕と青木さんの死体を見るなり殴ってきました。
「今度はオッサンか。もうやらないって言っただろう!」
兄の怒りももっともでした。僕は泣きながら兄に訴えました。
「ごめんなさい、ごめんなさい。うずきが止まらなかったんだ。どうしようもなかったんだ」
「はあ、いいよ。とりあえず夜になるまで待つぞ」
兄は青木さんをしげしげと見て言いました。
「こんな汚いオッサンとやったのか、瞬。よくやるよ」
「父さんの友達だったんだ」
「へえ……父さんの?」
兄は興味が出たようでした。僕は青木さんについてあれこれと説明しました。
「可哀想にな」
「うん、可哀想なことしちゃったと思う」
「可哀想なのは瞬だよ。なあ、本当にうずきを静められる方法、探そうか」
僕は以前からほんのりと温めていたことを兄に話しました。兄は残忍な顔で笑いました。そして、実行することに決めたのです。とはいえ、まずは青木さんを埋めることからでした。
「このメガネ、オッサンのか?」
「うん。記念に置いとく」
兄とまた、山に行きました。僕は助手席で仮眠を取りました。今回は埋めるのを兄も手伝ってくれましたので、早く済みました。
兄の部屋に戻り、激しく求めあいました。青木さんとは満足できませんでしたから、兄の与えてくれる快楽がいつもに増して甘美に思えました。
六人目で本当に最後にする。そして、自首する。全ての罪を僕自身が語る。そうしてやっと、止まれるはずです。誰にも止められないのなら、自分からそうできない環境に追い込むしか、もう道はありませんでしたから。そして、それは兄との別離を意味しましたから、少ない期間を精一杯彼に捧げようと心に誓ったのです。
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