35 反省

 奈々には、僕と付き合っていることは誰にも内緒にさせました。心配をかけるから、と親にも言わせないようにして、門限までには必ず帰らせました。


「僕とのことは秘密だよ。守れるよね?」

「はい、瞬さん」


 僕たちは指切りをしました。理由はただ一つ。奈々の失踪がわかった時、僕との関与を疑われたくなかったのです。

 奈々の反応を伺いながら、慎重に進めました。そのうちに、梓と行ったところは行き尽くしてしまって、頃合いだと思い僕の部屋に呼びました。作ってあげたのは、オムライスでした。


「わあっ! 瞬さんって料理も上手なんですね」

「奈々のために頑張ったんだよ」


 食べ終わった後、僕は奈々の肩を抱きました。彼女の心臓が跳ねる音が聞こえるかのようでした。


「キス……してもいい?」

「はい……」


 そっと重ねるだけの口づけをしました。僕は奈々に尋ねました。


「僕も男だからさ……奈々とそういうことしたいとおもってるけど、奈々はどう? 恐い?」

「瞬さんになら、わたしの初めて、あげてもいいです。でも、もう少しだけ、待ってください……」


 予想通りの答えでした。僕は奈々を抱き締めました。


「うん。僕、ちゃんと待つからね」


 そう。待つ予定だったんです。この言葉を聞くまでは。


「わたし、お母さんにだけ、彼氏ができたこと言っちゃいました」

「えっ……」

「誰かまでは言ってません。ただ、年上とだけ」


 約束を破られた。殴り付けたくなりましたが我慢しました。その日はそれで帰らせ、兄の部屋に行って睡眠薬を貰いました。

 そして、次に奈々を呼んだ時。コーヒーを出しました。


「ごめん、濃く作りすぎた。砂糖と牛乳入れるね」

「はい」

「……ああ、変な味だね」

「大丈夫ですよ」


 しばらく他愛もない話をしました。次のデートはどうしようか、そういう話です。急に、ぐらりと奈々の身体が揺れました。成功です。


「約束を破った奈々が悪いんだからね……」


 僕は眠ったままの奈々を犯しました。兄に処方されていたのはかなり強い睡眠薬でしたから、最後まで起きませんでした。反応がない相手とするのは、死体を相手にしているようで不気味でしたが、それでも中に吐き出しました。


「もっと時間をかけたかったんだけど……」


 僕は奈々の首に手を伸ばしました。高揚感でいっぱいになりました。命を今奪っているのだということを噛み締めながら、ぐっと絞めました。

 これで奈々は僕のもの。でも、少しだけ物足りなかったというのが正直な感想です。ぴくりとも動かなくなった彼女のまぶたを撫で、キスをしました。

 これでしばらくは、うずかなくなるでしょう。就活も卒論もあります。奈々に時間を取られるのも痛手ではあったし、これで良かったのだと思うようにしました。

 奈々の髪を切って、袋に入れ、兄を呼びました。僕に睡眠薬を渡した時点で、今回のことはわかっていたようです。


「あのさー、瞬。わかってはいたけどさ。もう四回目なんだぞ。これで最後にしろよな」


 兄はまるで、僕が捨て猫を拾ってきた時のような反応をしました。兄にとって、弟が人を殺すということは、そういうことでした。


「身近な相手ばっかりやってるだろ? そろそろバレるぞ。もうやめとけ。なっ?」

「そうだね。もうやめる」


 今回はさらに遠くの山まで行きました。兄は夜通し運転し、僕は助手席で寝ていました。疲れたからと埋めるのは手伝ってくれませんでした。


「瞬、せっかくだから観光して帰るか?」


 僕たちはお寺を回りました。ですが、どこも写真で見たことがあるな、程度の貧相なことしか思いませんでした。兄は興味深かったみたいで、看板の説明書きまで細かく読んでいました。

 サウナ施設に行き、そこの休憩室で兄は爆睡しました。無理もありません。僕は一人、喫煙所でスマホをいじりながら暇を潰していました。

 兄の部屋に戻り、ようやく抱いてもらえました。僕は兄を煽り、激しくさせました。強引にねじこまれ、突かれ、悲鳴をあげました。それこそが僕の望んでいたものでした。

 奈々の失踪は大騒ぎになりました。バイト先に彼女の両親が来て、事情を聞かれました。なぜか兄が奈々と付き合っていたのではないかと疑われました。


「あーしつこかった。キレそうになったよ。何とかなったけど」


 兄はかなり不機嫌でした。それで鞭で打たれました。終わった後には謝ってくれました。


「ごめんな、瞬。瞬だって辛かったよな。そうすることでしか満たされないんだもんな。瞬のうずきをわかってやれるのはこの俺だけだから。でも、もうするなよ。さすがにやりすぎだ」


 僕も反省しました。就活と卒論に真面目に打ち込むことにしました。その結果、今の家から通える範囲の企業の内定を獲得しました。希望ではない営業職でしたが、この際何でも良かったのです。兄と一緒にいることができれば。

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