25 例え
海斗とは誕生日の翌日に会いました。植物園に行ってロープウェイを使い、山の上から夜景を見ました。薄暗いのをいいことに、海斗は手を繋いできました。僕もきゅっと握り返しました。
僕の部屋に来て、プレゼントを渡してくれました。万年筆です。瞬くんのイメージは白だから、と大理石のような模様が入った白い物でした。
キスをして、その先を求めたのですが、海斗は嫌がりました。
「なあ、瞬くん。オレはキスとかハグとかできるだけで幸せ。だから、やめとこう?」
「海斗がそう言うのなら」
二人で缶ビールを飲んで、長い話をしました。海斗はもう、ルリちゃんのことは思い出として心にしまったようでした。
僕は海斗の家族の話を聞きました。両親と、妹がいて、犬を飼っているとのことでした。犬と聞いて僕は反応しました。
「僕、ペット飼うの許してもらえなかったからさ。羨ましいよ」
「また今度うち来いよ。ポメラニアンなんだけどさ。触らせてやる」
話は僕たちの将来のことになりました。海斗は言いました。
「親には瞬くんのこと、言えてないよ。男と付き合ってるって話したらどうなるのか……」
「僕も話してない。父さんはともかく、母さんには反対されそう」
海斗は真剣に考えていてくれたのでしょうね。同性婚ができる国へ行くことを本気で調べていました。
海斗の髪は、出会った時より伸びていました。しかし、就活となると切らなければなりません。僕は彼の長髪が好きでした。実行するとなると、就活が始まるまでにしなくてはならないと思いました。
その日は僕の部屋に泊まることになっていました。途中でお酒が切れたので、コンビニへ行きました。
「何だかいいね、こういうの。好きな人と深夜に歩くってさ」
海斗は上機嫌でした。僕もお酒のおかげで気をよくしていました。コンビニでお酒とお菓子を買って、ビニール袋を提げながら、公園の辺りまでさしかかりました。僕は提案しました。
「季節もいいし、あそこで飲まない?」
「いいね」
公園のベンチに座り、缶チューハイをあけました。深夜の二時頃でした。人通りは全くなく、僕はタバコを吸いました。海斗にも一本渡しました。
「瞬くんは……オレのどこが好きなの?」
困る質問でした。僕はありったけの嘘を並べることにしました。
「真面目だし優しいとこ。芯も強いしね。僕とのことしっかり考えてくれていて嬉しいよ」
海斗はその答えに満足したようです。彼も返してくれました。
「瞬くんって、やってることはやってるけど、やっぱり根は純粋なんだよね。ひたむきなところもあるし。そういうところ、可愛いよ」
海斗の僕に対する考察は、果たして合っていたのでしょうか。ここまで話を聞いてくださっている記者さんはどう思われるでしょうか。まあ、いいです。続けますよ。
僕と海斗はどんどんお酒を進めました。桜が咲いており、雰囲気を盛り上げてくれました。こっそりとキスもしました。缶を全てあける頃には、海斗は千鳥足でした。
「飲み過ぎた……」
海斗は僕の部屋に帰ってトイレで吐きました。僕は背中をさすってやり、水を差し出しました。
「ごめん、瞬くん、迷惑かけて」
「海斗は僕の彼氏でしょ。これくらい当然だよ」
ベッドにあがり、身をぴったりと寄せました。海斗はすぐに眠ってしまい、僕はその寝顔をしばらく眺めていました。
海斗の白い首筋に手をあてました。今ならできるでしょう。でも、まだ我慢しよう。僕にはもっと大がかりな計画がありましたから。
彼氏と甘い一日を過ごしたことで、兄は大層不機嫌でした。イライラするから、と一発殴られました。僕はむしろ、前の兄に戻ってきてくれたのだと思って喜びました。
「おい、脱げよ瞬」
久しぶりに鞭をふるわれました。それはとても激しく、怒りがこもっていました。兄も元気になってくれたものです。
兄が疲れるまで僕は耐えました。すっかりお尻が腫れ上がった僕を、兄は抱き締めて言いました。
「ごめんな、ごめんな、瞬。俺だけ見てくれてたら、こんなことしないのに。瞬が悪いんだぞ。他の男と会ったりするから」
そして、こうも言いました。
「早く殺してくれよ、瞬。邪魔なんだよ。ちゃんと埋めてやるからさぁ」
「もう少し待って。時期が悪いよ。僕だってきちんと準備を整えてからやりたいんだ」
人を埋めに行くのは時間がかかりますし、疲れます。だから、軽はずみにはしたくなかったのです。
兄に寂しい思いをさせた分、僕はたっぷりと彼に尽くしました。兄が攻撃的な気分のままだったので、無理な体勢をさせられ、身体がきしみました。
「こんなことされてもよがるなんて、瞬は淫乱だなぁ!」
「そうだよ、僕は淫乱なんだよっ」
兄に罵倒される度、感度が良くなっていくのがわかりました。
「瞬、お前は俺のものなんだよ。例えどの男や女に抱かれたとしても、最後は俺の元に帰ってくる。そう決まってるんだよ」
兄に散々痛め付けられて、僕は達しました。情けない叫び声をあげて。心の中では思っていました。兄だって、僕のものだと。
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