18 三人

 じめじめとした梅雨の季節がきて、梓の死体はどこまで崩れたのだろうと考えました。久しぶりに彼女の髪に触りました。あの時のことを思い出し、狂おしい気分になりました。

 僕にとって、梓とは何だったのでしょう。初めてできた彼女。童貞を捧げた相手。あんなに好きだったはずなのに、自分のものになった瞬間、興味が薄れてしまったのが本音でした。

 死体が見つかり、捕まってしまうことが恐怖でしたが、僕はそれ以上に自分自身のことを恐れていました。あんなことをしてしまったのに、平然と学校やバイトをしている自分を。

 飼えなかったけど、生き物は好きでした。野良猫を見れば手を差し出しましたし、雀や鳩を見て和むこともありました。殺すだなんてとんでもないことでした。

 だから、よくわからなかったんですよ。なぜ人間を殺して平気なのか。兄がついていたから、というのはあります。いざとなれば罪をかぶるとまで言ってくれていましたし。

 そんなことを考えながら、僕は授業を受けていました。決まったメンバーというのはありませんでしたが、僕には友人が沢山できており、常に誰かと一緒に過ごしていました。

 ルリちゃんと海斗と三人でいることもありました。授業終わりにカフェでゆっくりしていたんです。ルリちゃんが言いました。


「なあ、今日は三人で楽しいことせぇへん?」


 僕はそれだけで察しがつきました。悪くない。海斗はというと、困惑した表情を浮かべていました。彼も気付いたのです。


「でも、そんな……普通じゃないよ」


 ルリちゃんはあっけらかんと言いました。


「それが楽しいんやんか。試してみぃひん?」


 僕だって散々、普通ではないことをしていました。だから、ルリちゃんの気持ちはよくわかりました。渋る海斗を説き伏せ、ルリちゃんの部屋に行きました。


「とりあえずお酒入れとく?」


 ルリちゃんが言うので、僕たちは飲みました。海斗も早いペースで缶をあけました。酔いに任せてしまいたかったんでしょうね。まず、僕がルリちゃんにキスをしました。

 それを見ていた海斗は、どんな気持ちだったのでしょうか。僕としていることは知ってはいたけど、それを目の当たりにしてしまって。

 海斗のルリちゃんへの気持ちは膨れ上がっていました。本気で彼女と添い遂げたいと考えていたはずです。

 僕はルリちゃんを脱がせ、ベッドに押し倒しました。海斗の視線が降り注ぎました。誰かに見られている。そのことは、僕をどうしようもなく高ぶらせました。

 海斗を意識していた僕は、ルリちゃんを荒っぽく扱いました。僕はこの女を性欲処理の道具としか見ていない。そういう雰囲気を出しました。


「はぁっ、瞬くん……今日は激しいなぁ……」


 ルリちゃんもまんざらでもなかったのでしょう。海斗を見て不敵に笑い、さらけ出しました。

 終わって僕はタバコを吸いました。少々やりすぎたのか、ルリちゃんの息はあがっていました。


「次、海斗だよ」


 僕が言い放つも、海斗はうなだれるばかりでした。僕は灰皿代わりにしていた空き缶に吸い殻を放り込み、海斗に迫りました。


「できないの?」

「その気に、なれない……」


 せっかくここまでやったのに。海斗もしてくれないと面白くありません。僕は海斗にキスをしました。


「やめて、瞬くん、やめて」

「やだね」


 ルリちゃんはケラケラと笑っていました。僕は海斗のベルトを外し、下着をおろしました。兄のものに慣れていた僕です。他の男のものもどうということはありませんでした。

 否応なしに海斗を勃たせ、ルリちゃんのところへ向かわせました。他人が交わっている姿を見るというのもいいものですね。海斗はもう吹っ切れたのか、彼女の名前を呼びながら、最後までやり抜きました。


「……瞬くん、なんでそんな、巧いの」


 そんな感想も海斗から出ました。


「秘密」


 僕は兄とのことは明かしませんでした。けれど、男性との経験はあると知られたはずです。ルリちゃんはさっぱりした顔をしていました。


「瞬くんがそこまですると思わんかったわ。ほんまにおもろい子やね」


 海斗がルリちゃんにすがり付き始めました。


「ルリちゃん、こんなことは、卒業までな。社会人になったらやめよう。オレのことだけ見て。瞬くんは切って」

「どうしようかなぁ。うち、瞬くんも海斗も好きやで。まあ、考えとくわ」


 ルリちゃんのような女性に本気になった方が悪いのです。ただ、恋愛感情というのはコントロールができないのは僕もよくわかっています。僕だって梓を犯しましたし。

 よっぽど三人でしたことが気に入ったのか、ルリちゃんはまたしようとしきりに誘ってきたのですが、海斗は断りました。

 そのうちに、僕もルリちゃんに呼ばれなくなって、しばらくが経ちました。僕には兄がいましたし、気にすることはなかったです。

 さあ、記者さん。次の展開を迎えますよ。僕のうずき。それを認めた日のことをお話します。

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