11 衝動

 あれは、十月に入ったばかりのことでした。

 僕は梓を自分の部屋に呼びました。彼女はいつも通り、たっぷりとお酒を持って現れました。僕はハンバーグを作ってあげました。

 次はどんなデートにしようか。梓の欲求はとどまるところを知りませんでした。行ける範囲全てのデートスポットに行きたがっていたのではないでしょうか。それほどまでに、僕との時間を楽しんでくれていたのだと思います。

 けれど、僕はもう我慢の限界でした。酔いの回った梓を押し倒し、強引にキスをしました。


「やめてよ、瞬……!」


 梓は抵抗してきました。だから殴りました。顔は避けましたよ。気に入っていたのでね。そして、恐怖心を与えたところで、服を脱がせ、彼女の処女を奪いました。

 与えられなければ奪えばいい。それを兄が教えてくれましたから。

 事が終わった後、梓は呆然としていました。僕がこれほどまでに強い衝動を抱えていたことに、まるで気づいていなかったのでしょう。そして、股から精液を垂れ流したまま、服をかき集めてわっと泣き始めました。


「信じてたのに……信じてたのに……」


 梓はそう繰り返しました。僕は彼女の髪を撫でようとしましたが、はねのけられました。あまりに泣くので、慰めようと思ってこう言いました。


「ごめんね、痛かったよね。次からは気持ちよくさせてあげるから。梓もきっとわかるから。だから、泣かないで……」


 梓は僕をキッと睨み付けて叫びました。


「訴えてやる! 警察行ってやる! 捕まればいいんだ!」

「……それは、困るなぁ」


 口止めするしかない。そう思いました。僕は梓の首を絞めました。彼女の目から、光がなくなり、身体がだらりと垂れる、その様を目に焼き付けました。

 初めて人を殺めたあの時のことは……今思い出しても、ぞくぞくするんです。これで梓は永遠に僕のものになった。そう思ったんです。

 ぴくりとも動かなくなった半裸の梓を、長い間見つめていました。身体はまだ温かく、キスをすると唇はふわりと柔らかかったです。

 それからが問題でした。梓を犯すところまでは計画に入っていたのですが、殺してしまったのは想定外でした。

 僕は兄を呼びました。兄は梓の死体を見てため息をつきました。


「女犯して殺すなんて、我が弟ながらよくやるよ……」


 そして、スマホを操作しました。カーシェアの予約を取ったのです。兄は言いました。


「先に買い物してくる。ちょっと待ってろ」


 兄を待つ間、僕は梓の髪を切りました。艶々とした美しい黒髪です。それを紙に挟んで、ファスナーつきのケースの中に入れました。兄は何も言いませんでしたが、死体を遺棄する気です。手元に何か残しておきたかったんです。

 それと、梓のスマホは指紋認証だったので、ロックを解除しておきました。彼女は親らしき人とあまり連絡を取っていないことがわかり、これだと失踪に気づかれにくくていいと思いました。

 しばらくして兄が戻り、一旦梓に服を着せて、兄が背負って車まで運びました。一時間ほどかけて、山まで行き、穴を掘りました。

 梓の服を脱がせ、裸で穴の中に放り込みました。服は後で燃えるゴミに出しました。土をかけ終わると、もう汗だくでした。兄はタバコに火をつけました。


「兄さん、一本ちょうだい」


 ここから、僕は兄に対する口の聞き方を変えました。帰りの車の中で、僕は兄にこう言いました。


「ねえ、兄さん。もうこれで、僕たちは離れられないね。兄弟で、恋人で、共犯者なんだ。一生離れないよ」

「ああ、もちろんだ」


 力強い返事でした。さらにこう言われました。


「瞬。お前の罪は俺も背負う。だから安心しろ。絶対に守ってやるからな」


 兄の部屋に行き、僕は彼のお尻を触りました。


「ねえ……兄さんの味も教えてよ……」


 兄はたっぷりと教えてくれました。梓とした時は、正直そこまで快感が得られなかったんです。兄の中は温かく、優しく僕を包み込んでくれました。

 兄に吐き出して、スッキリとしました。そして、改めて自分のやってしまったことの重みを痛感しました。僕は殺人者になったのです。


「バレたらどうしよう、兄さん……」

「スマホは俺に預けろ。何とかしとく。瞬は何も考えなくていい。今まで通り、大学生活とバイト生活を送るんだ。なぁに、人が一人死んだくらいで、世界はいつも通り回るんだよ」


 兄の言ったとおりでした。メインの働き手だった梓がいなくなり、バイトはしばらく大変でしたが、新しい人が入って、何とかなりました。

 僕はさらに、兄との行為に溺れました。楽しみ方が増えたんです。色々と試したくなりました。

 梓のことを思い出したい時は、そっとあの髪を触りました。冷たい土の下に眠る彼女のことは可哀想でしたが、僕の言うことを聞いてくれなかったんです。仕方ありません。

 僕はいつも通りの日々を送りました。兄がこう言ってくれたんです。人は死んだらはい、終わり。魂なんてものはないと。僕はそれを信じました。だから、梓の亡霊が見えるということもなく、普通に過ごすことができました。

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