第134話 『特別な人』

134  


 たまたまではなかったことが分かってしまった。


 掛居が金曜日に夜間保育の助っ人要員になっていることは

知っていたけれど、まさか……相原と一緒に帰るような仲に

なっていたとは。


 それは相馬にとって青天の霹靂だった。


 自分はこれまで掛居とはいい距離感で上手くやってきており、

ふたりの関係性に満足していた。



 恋愛を挟まないからこそのほどよい距離感であり、相馬は職場において

毎日充実していて、この先も最低でも2年から3年ほどは今のままでいられるのだと思っていた。



 だが彼女に男ができるとなると話は違ってくる。



 確実に……。


 予想していたよりも早く彼女が退職してしまう可能性が出てくる。

 それは嫌だ……。


 いや、それも嫌だが彼女が自分とよりも他の男と親密になるのが

すごく嫌だ。


 恋愛感情は抜きでと、一緒に仕事するようになって最初にお互い

確認し合った仲とはいえ、時間の経過と共に自分が惚れこんだ相手なら

他の人間だって彼女の人柄の良さに気付くというもので、どうして

この先も彼女が誰とも恋愛しないなんて思えたのか……油断していたことが

悔やまれる。



 俺は、彼女の仕事場に恋愛感情を持ち込まないという姿勢に

惚れこんでいたわけだが、先週とそしてこの夜彼女の側近くに男の影を

見たことで、自分はいつの間にか恋愛感情で彼女のことを好きになって

いたことに気付かされた。


 何度も自分に問いかけてみた。


 業務上とはいえ、仮にもパートナーの彼女を相原にもっていかれそうだからという理由で焼きもちを恋心と勘違いしてはいまいかと。


 自問自答してみる。


 焼きもち焼いているのか? 

 ものすごく焼いてるな、自覚有り。



 掛居さんがヤツのものになるのは嫌か?

 すごく嫌だ。



 じゃあこの先、掛居さんとずっと一緒にいたいのか? 

 いたい、と俺の心が告げる。


 相原さんは同性から見ても魅力的な人で人間性も素晴らしいと思うが、

ここは、これだけは一歩も引けないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る