第133話 『特別な人』

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『私も小暮さんに右倣えしようっと』


 昼休みが終わりデスクに向かう私に横から相馬さんが揶揄からかってくる。



「掛居さん、朝は幸せオーラ全開だったのにどーしたの?

 今度はお疲れモード全開だよ。

 こんな掛居さん珍しいよね」



「すごい、私のこと観察してるんだ。これからは気が抜けないな」


「分かった、分かった。

 いつも張り付いて見ないからちゃんと気を抜いてくださいよっと」



「相馬さん、私もそれなりに心拍数の上がるようなことがあるんです~。

 もう状況は上がったり下がったり、激しい激しい」


「そんなの聞くと『それってどんなこと?』って気になるけど

訊かないよ、安心して」


「はい、お気遣い痛み入ります」



 相馬さんと軽口を叩き合い、午後からの仕事はスタートした。




 掛居と軽口を叩きあった週の金曜日のこと。


 相馬はこの日も残業で残っており、ちょうど20時過ぎに仕事が

終わった。



 1階に降りたところで

『そう言えば掛居さんは今日は夜間保育の日だったな』

などと掛居のことを思い出し、保育所のほうを見やると……。


 相原が子供を抱いて出て来た。



 相原の子供がほぼ毎金曜日、夜間保育に預けられていることを

知る由もない相馬は、掛居と相原の急接近のことも知らない。



『相原さんも子連れで大変だなぁ』

などと感慨に耽る間もなく、少し遅れて掛居が相原の後を追うような足取りで自社ビルから出て行くではないか。



『考え過ぎ? たまたまだろ』


 そう思おうとした癖にちゃっかり相馬は二人のあとを付けて行った。



 そこには興味という名の言い訳とプラスαの感情があった。


 そしてしっかりと見てしまう。

 掛居が相原の車に同乗し、一緒に帰って行くところを。


 相馬は考えた。


『今回たまたまなのか……それとも』


 どうしても確かめたくて次の金曜も二人の行動を注視することにした。




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