第132話 『特別な人』
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「たぶん、私が子持ちの相原さんを狙っているなんて微塵も
想像してなかったんじゃないかな。
それと裏技使ったから油断したんじゃないのかしら」
「裏技って?」
小暮さんの問い掛けに何故か遠野さんは私の顔を窺う。
『なんで、私?』
そう思っていたら、とんでもないことを言い出した。
「次の休日に休日のサポーター保育員として凛ちゃんを預かることに
なっていて、一度保育所の上司から住所を教えてもらったけれど、
行き方に自信がないから教えてほしいって頼んだの」
『きゃあ~、なんて恐ろしい人なの。
呆れるやら、呆れるやら、もっとドンピシャな言い得て妙的な言葉を
口に出したいけど、言葉が出てこない。そんな自分が恨めしい』
「うっわぁ~、それってバレるとヤバイ案件よ」
「落ち着いて! 大丈夫よ。
突撃したから相原さんにはどこかで情報取ってることはバレてるけど
訴えられてないしぃ」
「う~ん、そういう問題じゃないと思うけど」
「そういうのはひとまず置いといて、肝心なのはこの先の話なのよ。
聞いて、二人共」
「分かったわ。どうぞ」
「突撃したら……なんと、女の人がいたのよ。
がっかり……奥さんがいたのよ。
あぁ、違うかも、元が付くのかもしれないけど、家に出入りしているみたいだから復縁するのも時間の問題かもね。いやんなっちゃった」
「へぇ~、残念だったわね」
「だ・か・らぁ~、あなたたちも万が一にも彼を狙っても駄目だからね。
これを教えてあげようと思って招集かけたの」
「そっか。私も掛居さんも気を付けるわ」
おだてにも取れるような無難で耳障りのよい言葉をかけると
遠野さんは満足顔でブースから出て行った。
呆れ顔で小暮さんが言う。
「何か、疲れましたね。
私たちに気を付けてって訳わからんことを話してる自覚なしで。
今後、私は遠野さんとはなるべく距離を置くことにします。
昼食もなるべく一緒にならないようにするつもりです」
「うん、そうね。
変なことに巻き込まれそうで一抹の不安を私も感じたわ。
もう放っておきましょう」
私たちの変に濃ゆい昼休みが疲れを伴ってようやく終わりを告げた。
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