10 終末の爆発

 有栖透子は目を覚ました。頭が妙にすっきりとしていた。夢と現実の区別がはっきりとつく。今、私は現実にいて、研究室のイスに座っている。

 ドアを乱暴に叩く音が響いている。はっとしてイスから身を起こすと、隣のイスから夏屋が、その隣から吉原が上体を起こすのが見えた。吉原は少し顔色が悪く、腹を押さえるようにしていて、立ち上がりはしなかった。

「夏屋!有栖!ドアがもう限界だ!」

 二人が慌ててドアの方へ向かうと、調月が背中で押すようにしてドアを押さえていた。ドアは歪み、今にも破られそうだった。二人が押さえるのを手伝おうと駆け出した瞬間、調月の身体はドアとともに吹き飛ばされ、ガラの悪い男たちがなだれ込んできた。

「総理の頭をイカれさせたのは、この椅子かよ!」

 男たちは部屋に入るなり、手あたり次第にイスを破壊し始めた。直後、サングラスをかけた黒服、つまり、関根の雇った男たちが入ってきて、ヤクザたちの破壊行為を止めようとする。誰かが発砲し、それにつられるように激しい銃撃戦が始まる。

「逃げよう。こっちだ」

 夏屋は吉原に肩を貸して部屋の外へ出る。有栖と調月も続く。

 エレベーターの前でも乱闘が繰り広げられていたので階段へと走る。その時、階段の上から人間がごろごろと転がり落ちてきた。四人は間一髪で避け、落ちてきた人物は踊り場で止まる。白間だった。

「退け!そいつを始末する!」

 階段の上にはピストルを構えた八雲が立っている。

「やめろ!」

 関根が階段を駆け下りてきて、八雲を突き飛ばした。八雲も階段を転がり落ち、白間の上に勢いよく落ちる。八雲の頭が白間の顎を強打し、白間は気絶した。

 ドォンという大きな音がして、上の階から焦げ臭いにおいが下りてくる。

「とにかく逃げるぞ!」

 関根の声で我に返る。関根は気絶した白間を担ぐと、階段を降り始める。全員がそれに続いた。


 ビルの下に着くと、たくさんの警察が待っていた。真っ赤なパトランプが夜のビジネス街を照らしている。

「……ん、あ。こ、ここはどこだ?」

 白間が目を覚ます。関根に担がれている状況を不思議そうに見て言う。

「どうしてこんなことになっているのかわからないんだが、もしかして君が私を助けてくれたのかな?」

「はあ、まあ、そうですね。俺が助けました」

 白間はまるでたくましく成長した孫を見る老人のような温かい目で関根を見た。

「ありがとう。よくわからんが」

「首相!お怪我はありませんか?」

 救急隊員らしき青年が駆け寄って来る。白間はキョトンとした顔をする。

「首相?私はそんな首相と呼ばれるほどの人物ではあるまいよ。で、首相っていうのは、君の事かね?」

 関根は一瞬唖然とするが、すぐに自信に満ち溢れた顔になって言った。白い歯が光る。

「ああ。もちろん首相というのは、私のことです」

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