第21話 夢の中にいられたら。

夢の中では、紅夜は家族の一員になれた。その幸福感を噛みしめた瞬間に目が覚めるから、絶望感が増した。

数年が経ち、紅夜が15歳の誕生日を迎えた日の朝のこと。両親が、紅夜が過ごす離れにやってきた。今日は儀式の周期では無いのに、と不思議に思いつつ迎え入れる。

『お前は神のお嫁さんになりなさい。』

『あなたにとって、一番のしあわせよ。良かったわね。』

あれよあれよと言われるままに、紅夜はこの屋敷を出る支度をさせられた。

どうやら自分は、家を出されて神職につくらしい。

見習いとして、遠方の修道院に送られると聞き、紅夜の中に不思議な虚無感があった。

『…お前が紅夜か。』

両親が馬車の手配に紅夜から離れたその僅かな時間、初めて兄の月夜に話しかけられた。

『…。』

紅夜が黙って頷くと、月夜は無遠慮な視線を彼女に投げかけた。

『父上が言っていたとおり、薄気味悪いヤツだな。なあ、知ってるか。各地で魔女狩りが行われていること。』

『…? いいえ。』

月夜はクスクスと嘲笑する。

『父上と母上は、お前が火炙りにされないように出家という配慮をしてくださったんだ。感謝しろよ。』

この家から魔女裁判を受ける者が出るだなんて不名誉だからな、と月夜は言葉を紡ぐ。

『お前が悪魔の子って呼ばれる由縁を教えてやるよ。』


紅夜から自身の過去を聞かされて、蝶々たちは言葉を失った。

「そんなのひどいよ…っ。」

過去の紅夜を思い、アリスはほろほろと涙を零す。

「家族なのに、どうして痛いことするの。紅夜がかわいそう。」

「ありがとう、アリスさん。」

そう言って、紅夜はアリスの肩を抱いた。

「でもね、家族だから私を必要としてくれたんじゃないかって思うの。」

胸がちくりと針で刺されたように痛む中、その想いだけが紅夜を今まで支えてくれていた。

黙って聞いていたルイスが立ち上がる。

「…僕、月夜が来ないように外で見張ってる。」

「私も行く!」

そう言って、ルイスとアリスはばたばたと外へと駆けていった。

双子を見送って、紅夜と蝶々は二人残された。空いた紅夜の隣に、蝶々は腰掛ける。大人二人分の体重で、古いソファは小さく軋んだ。

「二人で話すの、何だか久しいね。紅夜?」

「…。」

蝶々の優しい声色が、紅夜の鼓膜に柔く響く。ずっと堪えていた涙が目の奥から熱くこみ上げて、鼻がツンと痛くなった。

「…私は、本当は…神職についてはいけないんです。」

「それは、何故?」

穢れているから、と紅夜は呟く。

「過去の話には、続きがあるんです。」

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