第18話 尋ね人

サチが風に攫われた自身の帽子を追いかけていく。白地にピンクの花飾りが付いた彼女のお気に入りの帽子だった。

「…。」

帽子は、見たことのない青年の足元にふわりと落ちる。

「ひろってくださーい!」

サチは次に吹く風を警戒して、青年に声をかけた。青年は帽子を拾い上げて、サチに手渡す。

「どうぞ、お嬢さん。気をつけて。」

「ありがとーございます!」

青年は太陽の光に透ける金髪を惜しみなくさらけ出して、その瞳は鮮やかな碧眼だった。どこか気品が漂うその立ち居振る舞いに、彼がどこぞの貴族だと知れた。

サチは子どもらしい無遠慮な視線を注いでしまう。その視線に気が付いた青年は、ふっと笑って彼女を許す。そして、サチに言う。

「この村の教会に案内していただけないだろうか。」

その笑みは、どこか見たことのある面影を宿していた。


数日の間、教会で供に過ごすようになったルイスとアリスは、森にある私物を取りに出かけていった。薄暗い森は心配だから、と紅夜は蝶々に頼み込み、彼もその用事に同伴している。

「行ってらっしゃい。」

三人を送り出して、紅夜は手を振った。アリスも大きく手を振って応える。

「いってきまーす!」

ルイスも照れくさそうに小さく手を振り、蝶々は紅夜に持たされた弁当の入ったバスケットを下げていた。

「…。」

三人の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、紅夜は教会の中へと引き返した。

今日は久しぶりに教会で、紅夜たった一人だ。せっかくだから、大掃除をしてきれいになった教会で三人を迎えようと思う。

清掃用具を準備していると、教会の扉がコンコンとゆっくりノックされた。

「シスター?いるー?」

それはサチの声だった。彼女の言葉に、紅夜は首を傾げながらも何の警戒なく扉を開けた。

「サチ?どうしたの…、」

「あのね、シスターにお客さま。」

紅夜はサチの背後に立つ青年を見て、時を止めた。

「あ!そうだ!」

サチの無邪気な声が響いた。

「お兄ちゃん、シスターに似てるんだ!!」


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