第2話 やっぱり夢じゃなかったの?
ピチュピチュと鳥の鳴き声が聞こえる。
私はうっすら目を開くとぼうっと天井を見上げた。
そこには見慣れた板の天井ではなく、ビロード素材の天蓋があった。
「え?え?昨日のことって夢とかじゃなかったの?」
私は驚いてガバリと起き上がると素足で窓際に走った。
窓を開いて身を乗り出してあたりを見回すと、そこにはファンタジー漫画に出てきそうな街並みが眼下に広がっている。
「嘘…こんなことって…」
言葉を失って項垂れていると、ライザがノックしてから部屋に入ってきた。
「愛花様!如何されましたか?もしや召喚の影響でお体を崩されたのでは?」
言いながらライザは私を助け起こしてベットまで肩を貸してくれた。
「あの、ここは一体どこなのですか?昨日はあのまま眠って何の説明もなかったから」
「混乱されるのは無理もございません。ただ。説明は王であるアベル様
よりされると通達されておりますので、私からは何も申し上げられません」
アベル…。
あの美しいけどどこか冷ややかな王に直接説明を受けるということはこれから出向かなくてはいけないのかと思うと気が滅入った。
きっと御付きの者や騎士たちが集う中で晒し者のような状態で話し合をされるのだろうと思うと気が重い。
項垂れていると、ライザは微笑んで言った。
「さあ愛花様、とりあえずお召し物をお着替えいたしましょう。ああ!その前に顔を洗う桶を持ってきておりますのでこちらでお顔を清めてください」
ライザはそう言って私の前にカートに乗った桶を運んできてくれた。
水面には薔薇の花弁が浮き。ほのかに薔薇の香りのするそれは縮こまった私の心を少しだけほぐしてくれた。
顔を洗うとだいぶ気分が上向きになった。
「ライザさんありがとうございます。顔を洗ったら少し気分がスッキリしました。ええと。この後のお着替えってもしかしてまたお手伝い付きで?」
私がドキドキしながら尋ねると、ライザは微笑んで答えた。
「はい!ただ、愛花様はお手伝いに慣れていないご様子と王にお伝えしたところ、慣れるまでは私1人でお世話するようにと王から勅命をいただきましたので、ご安心ください」
「それはライザが昨日のお風呂のことを王様に言ってくれたってことですか?」
「はい。なんだかおつらそうでしたので…」
ライザはとても気配りのできる女性のようだ。
ただ、私が拒否すると職がなくなると言っていたので、昨日の残りの人たちのことが気がかりでライザに尋ねた。
「あの…私のわがままで残りの人達は首になってしまったんですか?」
するとライザは驚いたように、そして優しい顔をして言った。
「愛花様はとても優しいお方なのですね。ご安心ください。残りのもの達は宮廷メイドとして別の職があてがわれましたから」
それを聞いて安心した。
私のせいで職がなくなるなんてとてもじゃないけど申し訳なさすぎる。
「ねえライザ。私は一体どうなってしまうの?私。元いた世界では変身すると魔法が使えたんだけど、この世界にはもしかして倒さないといけない巨悪がいるの?」
私が質問するとライザは微笑んで言った。
「いいえ、魔王はもう何十年も昔に召喚された勇者様によって倒されました。今は平和な世の中になっております。愛花様が召喚されたのは、この国に伝わる慣習で、時次期国王になる方の妃として、また皆を癒す聖女として王位が入れ替わる時に召喚の儀が行われているのです。今回は愛花様がそれに選ばれたのです」
なんて身勝手で残酷な儀式なのだろう。
今までも家族や友達から引き離されて王妃、聖女となるべく召喚された女の子がいたということに私は軽い怒りを覚えた。
「それはあまりに身勝手なのではないですか?勝手に連れてこられて一方的に聖女だ妃だって言われたってそんなの簡単に受け入れられるわけないじゃないですか。私は元の世界に大切な家族と友達がいるんです。今すぐ元の世界に帰してください」
そういうとライザは悲しい顔をする。
「申し訳ございません。選定の召喚魔法によって召喚された女の子は元の世界には戻れないのです。そういう魔法が存在しないのです。大切な方との別れは確かに辛いですが、どうかこの世界にも馴染んでいただけたらと思います。私でよろしければなんでもお手伝いさせていただきますので」
ライザはまるで自分が悪いことをしたかのようにしょんぼりとして言ったので、私は慌てて言った。
「違うのライザを責めてるわけじゃないのよ?私はこの国の慣習に怒っているの。そうだ!前王のお妃様も異世界の人なのよね?その人から話を聞けないかしら?」
そういうとライザはパッと顔を輝かせて言った。
「シエラ様のことですね!もちろんです。では使いを出してシエラ様に謁見できるように手配いたしましょう。ですが、その前に身支度を整えましょうね」
そういうとライザは手早くクローゼットからピンクのかわいらしいドレスを選んできて私に着せる。
「うーん。私昨日召喚されたばかりなのに、どうしてドレスがこんなにフィットするの?」
するとライザはポカンとした顔をする。
「もちろん魔法糸で編み上げたものですからです。きた瞬間その者の体型に合わせてフィットするもので、一般に流通しています。あの、もしかしますと愛花様のいらっしゃった世界では魔法がめずらしかったのですか?」
珍しいどころではない。魔法が使えたのは私とりるだけだったから。
それをいうとライザは驚いた様子だった。
「それでは愛花様は変身することで攻撃魔法と治癒魔法を使える。今の状態では魔法が使えないということなのですね…。それは、今までなかったことですので、早速王にそのことをお伝えしなくては」
ライザは私の髪を美しく結い上げ、飾りをつけて身支度を整えた。
その時だ。扉が開いて、アベルがツカツカと中に入ってきた。
アベルは手をかざすとライザは無言で部屋から去っていった。
「愛花。昨日はよく眠れたか?」
「はい。ふかふかのお布団とベット。ありがとうございます。ただ。私は元の世界に家族と友達がいるため、早く元の世界に戻りたいのです。どうか私を元の世界に戻してください」
ダメもとでもう一度アベルにお願いしたが、アベルは少し悲しそうな顔をして言った。
「ライザから説明を受けがだろうが、召喚することはできても元の世界に戻す魔法はないのだ。ここにきたからにはこの世界に馴染んでもらうほかない。この世界についての説明は受けたか?」
「いいえ…」
私が困惑しながら答えるとアベルは私の手をとってソファに座らせて、自分も隣に座った。
「この国はグレアールという。この国で一番重視されるのは魔法力で、それの強さによってつける職業が決まっている。生まれてすぐ魔法力を測定し、その子に合った学校に通い、将来の職のために準備をするのだ。特に王になる者にはかなりの魔法力が求められる。その力を維持するため、妃は別の世界の魔法力が強い者を選定して召喚することが慣例になっている。私の母上もろちろん別世界の者だ。戸惑いはあるだろうが、どうか愛花もこの世界に慣れて私の妃となり、聖女となってほしい」
アベルはそういうと私の手を優しく包みこ込んだ。
「手が冷たい。緊張しているのか…当たり前だな。いきなり親しいものと引き離されてこちらの都合で聖女に、妃になれと言われて納得できるはずもない。だが私は母上の苦悩を見てきたから、無理強いするつもりはないのだ。この慣習もできれば私の代で終わりにしたいと考えている。今はまだ前王の力が強かったせいで慣習を辞めされることができずに愛花をこの世界に召喚することになったが…どうかこの慣習を辞めさせるように手助けをしてくれないか」
真剣な顔でアベルは私を見つめてきた。
その顔を見ると私が本当に家に帰ることができないのだと実感してしまった。
ポロポロと涙が溢れる。
あの楽しかった日々にもう戻れない。
りるにももう二度と会えない。
そのことが悲しくて仕方なかった。
「でも、私は変身しないと魔法が使えないんです。その変身も終日できるわけではなくて、悪に立ち向かう時だけなんです。そんな私が魔法力が強いとは思えないのですが…」
するとアベルは懐から綺麗な鉱石を出して見せてくれた。
「これは魔測石と言って魔法の力を測るものだ。これに触れてみてくれ」
私は言われるがままその石に触れるとパリンと音がしてその石は砕け散った。
「これは…今までなかったことだ。あなたは歴代で一番の魔力を持っているようだ」
アベルは驚いて私の手を取った。
私は困惑した。私の力は女神フェリーチェ様にお借りしたもの。いつかお返しするものだったはずだから。そのことをアベルに説明すると彼も首を傾げた。
「そいういう契約ならこの世界にきた瞬間魔法力がなくなっても不思議ではないはずだが、愛花の魔法力は強いまま。今、試しに変身できるか試してみれくれないか?」
アベルに言われて私は変身ステッキを握ってくるりと降って変身した。
途端身体中に力がみなぎり変身することができたのだ。
「なるほど。やはり変身はできる。今何か魔法は使えるか?」
「はい。では防御魔法を」
そう言って水の防御壁を作ってみせる。
「魔法も問題なく使えているな。ならば憂うことはない。変身が必要なのは珍しいが問題ないだろう。癒しの魔法も使えるのか?」
「ええ。私は水の力を使って治癒魔法も私が担当していましたから」
そこで涙が溢れそうになってグッと堪えた。
いつも無茶をするりるの傷を癒すのが私の役割だったから。
「友達がいつも無茶をして傷だらけになるから、私がいつも治癒していたんです」
今頃どうしているだろう。
無性にりるに会いたくなった。
「愛花。寂しい思いをさせてすまない。そうだ。一度母上にあって話を聞くといい。きっとこれからの生活に役立つ」
アベルから提案してもらって安心した。
本当はこちらからお願いしようと思っていたから。
「ありがとうございます」
「ちょうど今日国民へのお披露目の席に母上も来られるのでその時に時間を確保しよう。愛花。私は貴方は無理やりこちらに連れてこられて不本意なのはわかっているが私は貴方を一目見た時から大切に思っている。そのことを忘れないでほしい」
そういうとアベルはソファから立ち上がると部屋から出ていってしまった。
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