第8話 鬼本 あかり

朝、お土産コーナーでお土産を見るために朝早くから起きた。

他の三人を置いて来たので今は一人だ。


当然朝早いので人はいない。それどころか店員もいない。


「…」


いや、店員は居てくれよ…

開店はしているみたいなのでとりあえず商品を見て回ってみる。


「ふ~ん」

温泉まんじゅうに温泉卵、湯泉ダンジョン限定のお菓子か…

「う~ん。悩むな~」

お土産の種類もそうだがお土産を買うタイミングも悩む。澪に乗せるのは大丈夫だが、お土産を持って出歩くのはちょっとな…。ただ人気のものだとすぐになくなってしまう。


「お土産悩んでいるのか?私はそのレトルトカレーが好きだよ」

後ろから女性の声が聞こえて、振り返ると…

「鬼本あかり…さん?」

「そうだな。ここのダンジョンの支配人をしている」



「お土産にカレーってどうなんですか?」

「私はうれしいよ?」


====


「すまないね。この時間は人が少ないから店員は倉庫にいるんだ」

「大丈夫なんですか?それ」

「カメラはあるから。実際、きみがいたから私が来たんだよ」

え?

「そんなに支配人って暇なんですか?」


「…私は旦那みたいに器用なことができる訳でもない。料理だってせいぜい家族に振る舞える程度でとても客に出せる物でもない。人に良い指示が出せる訳でもない。だからこのダンジョンのほとんどは任せっきりなんだ」

「そうなんですね」




「…」

「…」

ん?

「いや、そこは「そんなことないですよ」とか励ましの言葉をかける場面じゃないの?」

「漫画の世界じゃないんで。ここは現実です。現実を良く見てください。それに…」

「?」


「本当にそんな状態だったら普通、何十年も続けてられないですよね?」


「…はは、そうだね。こんななりだからアトラクションで子供みたく傲慢に振る舞うのが楽しいんだよ。ウケもいい。一度たりとも他人を見て自分のすべてが劣っているとは思ったことはないよ。きみは?」

「無いですね。普通の人間の上位種と言われている龍人種の幼なじみがいますが、その上に乗って命令していますから」

「…夜は綺麗かな?」

「はい。彼女の背中に乗って見る景色は綺麗ですよ。人工の明りもないですし…」

「返しが上手いね」


そんな風にあかりさん話していると…


「…お!来た来た。遅い!」

「すみません。!?お客様ですか?」

「そうだ。お土産を買いにきたんだとよ」

「すぐにご案内します。お求めになる商品は決まっていますでしょうか?」

「あ、まだ大丈夫ですよ。さっきまで支配人としゃべっていたので決まっていません」

「そうでしたか」


すると店員はあかりさんのところに行き、こっちに聞こえない程小さな声でしゃべっていた。


『何やってんの?お客様としゃべって時間を使わせて…』

美幸みゆきが来るのが遅いから…』

『から…じゃない!商品を選んでもらうのが先でしょ!』


「あの~」

「あ、どうぞ。商品を選んでもらって大丈夫ですよ」

「悪かったな。選ぶ邪魔をして…」

「大丈夫です」


「カレーおすすめだぞ」

そう言ってあかりさんはどこかへ行ってしまった。


店員さんはあかりさんの娘さんらしく、何回か「すみません」って謝ってきた。別に良いんだけど…。

「じゃあ、おすすめは何ですか?」


====


「で?何これ?」

「お土産…です」

「おお!まんじゅう!ないす!」

「う~ん。だけどねぇ」


「「「ここでカレーはお土産としてないわ」」」


そうだよな。別に湯泉ダンジョンはカレーで有名じゃないもんな。

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