第5話

不審者に遭遇してからの一週間は地獄だった。ちょっとした足音でもつけられているのではないかと怯えてしまう。学校に行く時はもちろんドアを使うが、普通の買い物などは必ず誰かについてきてもらうようにした。私に起こった出来事を聞いた友達は快く付き添いを引き受けてくれた。友達の存在をこれほど心強く思ったことはない。

それでも友人たち、大親友の純香にさえもドアのことは教えていなかった。なぜ教えないかと言われても特に理由などないが、なんとなく教えていない。

「自分だけドアを使って楽に通学しているのに。」という後ろめたいじぶんの声も聞こえる。でも「誰にだって話していない秘密の一つやふたつ、誰でもあるでしょ!」と思い、結局話さないまま終わってしまう。結局仕組みだって分かってないし。純香に見せて何もなかったら、恥ずかしいし。

はあー。と大きくため息をついてごろんとベッドに寝転がる。学校から帰ってくるとドッと疲労が押し寄せてくる。あの被害に遭ってから勉強に身が入らない。親は理解を示してくれているがこれじゃだめだと思う。このままただぐだぐだするようになっちゃったらどうしよう。もう一つため息をついて本棚に向かう。勉強の前に漫画読も。リフレッシュだから。気持ちを入れるためだから。ふと床に置いてある教科書が目につく。最近勉強をすることはおろか、バッグから取り出してすらないのに。お母さんが出したのかな…。とそこまで考えてすっと思考が冷えた。この部屋のドアはどこか外と繋がっている。内から外でも、外から内へも繋がることができる。ただ、このドアを使えるのが?もしドアをたまたま開けると私の部屋に繋がってしまったとしたら?はあ、はあと浅い息を繰り返し、目の前がクラクラしてくる。最初にドアが外につながっていると知った時のように震える手を伸ばしてノブを掴む。ぐっと扉を押すとそこは、、、どっぷりとした闇の中にうすく黄ばんだ蛍光灯が点滅するアンダーパスだった。

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