留守番 ⑥ 二人の思い

「ギーザ、そこまで」

「ウルスラ……」

「ウルスラさん……?」


 今にもドーチェの肩に掴みかかりそうなギーザを、ウルスラが制止した。


「ごめんね、ドーチェ。 コイツ、昔から思い込みが激しくって。 自分が好きなものが傷つくのが許せないの。 少し自重するように言ってるんだけどねえ……」

「ウルスラ、ごめん。 オレ、また……」

「ありがと。でも、謝るのは彼女が先」


 ウルスラに促されたギーザは「そ、そうだね……」と少し俯く。

 そしてまたドーチェに向き直り、彼女の両目をじっと見た。


「申し訳ございません、ドーチェさん。 私としたことが、あなたを怖がらせるような真似をしてしまって……」

「い、いえ、私もあまりにも余裕がなさすぎました。 お二方とも話しがお上手で、その、お話をしていると、何もかも話してしまいそうな気がして、それが怖くて……」


 頭を深々と下げるギーザに、ドーチェも本音を伝える。

 ギーザは頭に刻み込むかのように、「そうだったのですね……」と短く何度も頷く。

 ウルスラも「そっか……」と呟き、フッと短く息を吐く。


「まあ、まだ数回しか会ったこともなくて、かつワタシたちみたいな変なヤツが二人も現れたら、怖がるのも無理ないわね。 もう少し順序を踏むべきだったわ、許してちょうだい」

「あ、謝らないでください! ほら、お料理も来ましたよ!」


 ちょうどよくピザが乗った大皿が円卓の中心に置かれ、一緒に取り皿が置かれる。

 チーズとベーコンがたっぷり乗り、焼き立ての湯気が漂うそれは、見ているだけで食欲がそそられた。

 不思議なことに、料理を運んできた給仕は笑みを浮かべ、「ごゆっくり」と言い残して円卓から離れていった。


(気を使ってくれたのかな?)


 ドーチェは給仕の方を伺いながら、ピザを取り分けようと大皿に手を伸ばした。


「待って、ドーチェ」


 ウルスラの手が、ドーチェの手にそっと乗せられる。


(今度は何ですかぁ……?)


 ドーチェはまた心の中で涙目になり、恐る恐る乗せられた手の先を見る。

 そこにはギーザと同じく申し訳なさそうに眉を下げた、ウルスラの顔があった。


「これ、ここで食べてもいいけど、ドーチェさんにはこのシチュエーションがまだ少し酷かもだし、場所を移さない? ここ、テイクアウトも出来るのよ」

「場所を移す、ですか?」

「うん。私、あなたが話しやすくなる場所を知ってるから」

 

 そう言いながら、ウルスラがドーチェの手を握る。

 その手から伝わる暖かさに、ドーチェはを感じた。


「そうなのですか? それなら……」


 しかしドーチェが返事をした途端、ウルスラの顔が悪戯っぽい顔に戻る。


「はい、決まり! ギーザ、店員にテイクアウトのこと伝えてきて! 後、ここの支払いはアンタがして! 後で折半するかもだから、レシートも忘れずにね!」

「OK、ウルスラ!」


 ギーザが腕を曲げて力こぶを作りながら返事をし、会計まで駆けていく。

 二人の息の合った連携(?)を、ドーチェはただぼうっと眺めていた。


(警戒しすぎ、だったのかな?)


 どうして二人がこんな私を気に入っているかは、まだわからない。

 でも今回、彼らが純粋に私と話がしたい、仲良くなりたいということが伝わってきた。

 そこにこちらを傷つけようという悪意は〝多分〟ないと思う、いや思いたい。

 まずは、この直感ってやつに正直になってみよう。

 もちろん、『警戒』の二文字は常に頭の片隅に置いておくべきだが。


「ドーチェ、ギーザの方も準備出来たみたいだから早速行きましょ! ギーザ、荷物持ち!」

「はいよ!」


 床に置いてあった大振りの買い物かごを、ギーザが軽々と肩から下げる。

 それを見届けたウルスラが、ドーチェの手を取った。


「ち、ちょっと、ウルスラさん、引っ張らないでください!」

「えー? 鶏肉、悪くなっちゃうんでしょ? だったら急がなきゃ!」

「ど、どういうことですかー?」


 困り顔になるドーチェに、ウルスラは「まだ内緒!」とはぐらかす。

 横に並んで走るギーザも「そう、内緒です!」とニコニコ顔だ。


「もう、本当にこの人たちは……」


 そうドーチェはボソッと悪態をつく。

 しかし、まだ油断ならないとはいえ、姉以外の話友達が出来たことが少し嬉しいのも本当なのであった。


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