王への審判! 聖クリストポルスvsメシア!の巻
むかしむかし、あるところにレプロブスという男がおりました。
レプロブスはカナン人の庶民の出身で、巨大な体躯といかつい面貌の持ち主で身長は十二キュビトもありました。
一キュビトが約四十五センチメートルと言われており、素直に受け取るとだいたい五メートル四十センチの巨人でした。
流石に盛りすぎだろうと思いましたが、そう書かれているのでまぁ多分そうなのでしょう。
ある時、レプロブスはこの世で一番強い王様に仕えたいと思いました。
そこでこの世に並ぶ者がいないと取り沙汰される偉大な王様をたずねました。
王様は喜んで彼を採用し、王宮で自分の身辺を護衛するように言いつけました。
ある日のこと、ひとりの楽人が王様のもとにやってきて一曲吟じました。
その歌の中には何度も悪魔の名前が出てくるので、そのたびに王様は額で十字を切りました。
レプロブスはこれを見て、王様がどうしてそんなことをするのか、そのしるしにどんな意味があるのか尋ねました。
王様はばつが悪そうにもごもごと言うだけで、ちゃんと答えてくれませんでした。
「お答えいただけないのならば、もうこれ以上お仕えるするわけにはまいりません」
レプロブスがこうまで言うので、王様も答えないわけにはいかなくなりました。
「悪魔の名を聞くたびに、十字のしるしを切って身を清めるのだ。そうしないと悪魔が取り憑いて、わたしを破滅させるかもしれないからな」
これを聞いてレプロブスが言いました。
「悪魔のわざわいを恐れていらっしゃいますが、それほど悪魔を怖がっておられるからには、どうも悪魔の方があなたよりもずっと偉大で強いに違いありません。となるとこの世で最も偉大な主君を見つけたと思っていたのは、とんだしくじりのようで。かねてからのわたしの望みも打ち砕かれてしまいました。この上はおいとまするしかありません。わたしは悪魔を探し出し、彼を主君と仰いで家来にしてもらおうと思います」
こうしてレプロブスは王のもとを去って、悪魔を探しに出かけました。
その旅の途中、とある荒野にさしかかると騎士の一団に出会いました。
騎士のひとりに見るからに獰猛な顔つきの男がおりました。
彼はレプロブスのそばへ近づいて、どこへ行くのかと尋ねました。
「主君と仰ぐ悪魔を探しているのです。家来にしてもらいたいのです」
すると騎士は、
「わしこそおまえの探している悪魔だ」
と言いました。
レプロブスはたいへんに喜んで、この悪魔を主君とさだめ、末永くお仕えすると誓いました。
こうしてふたりとなって旅を続けていると、やがて大きな街道に出ました。
街道には大きな十字架がひとつ立っており、悪魔はこれを見るとたちまち恐れをなして逃げ出しました。
レプロブスを荒れ果てた荒れ果てたデコボコ脇道に連れ込み、遠回りしてから街道に戻りました。
レプロブスは怪訝に思い、
「どうして本道を真っすぐに行かず、わざわざ荒野の中を回り道したんですか?」
と尋ねました。
悪魔はばつが悪そうにもごもごと言うだけで、ちゃんと答えてくれませんでした。
レプロブスはまたこのパターンかと思いました。
「お答えいただけないのならば、もうこれ以上お仕えるするわけにはまいりません」
レプロブスがこうまで言うので、悪魔も答えないわけにはいかなくなりました。
「むかし、十字架にかけられた救世主がいた。それ以来、わしは十字架のしるしを見ると逃げ出さずにはおれないのだ」
「十字架のしるしがそんなに恐ろしいのなら、その救世主という人はあなたよりも強くて偉大に違いありません。そうだとするとわたしのこれまでの苦労は水の泡というわけで、わたしはこの世で最も偉大な主君に巡り会っていないことになります。あなたともこれでお別れです。わたしはこれから救世主を探しに出かけます」
こうしてレプロブスは救世主を探す旅に出ました。
レプロブスは長い間、救世主のことを教えてくれる人はいないだろうかと尋ねて回りました。
最後にある隠修士に巡り会い、レプロブスへ丁寧に救世主の教えを説き、熱心に信仰をすすめて、こう言いました。
「あなたがお仕えしようとする王は、しばしば断食することを要求します」
レプロブスは答えます。
「他のことを要求していただきたいものです。なにしろ断食というやつは、大の苦手なものですから」
「あなたはその王に向かって何度もお祈りをしなければなりません」
「お祈りとはどういうことをするのか、見当もつきませんから、とても命令に従うわけにはいきません」
「ううむ、それでは、向こう岸に渡ろうとして多くの人たちが命を落とす川があるのをご存じですか? あなたは背も高いし力もある。その川を渡りたい人たちを運んであげなさい。そうすればあなたがお仕えしたいという、救世主の思し召しにかないましょう。そして救世主も、きっとあの川のほとりであなたに姿を現してくれると思いますよ」
「それならわたしに打ってつけの仕事ですから、川守りとして救世主にお仕えすることにいたしましょう」
こうしてレプロブスはその川のほとりに行って、岸辺に小さな小屋を建てました。
棹の代わりに太い杖を持ち、それで身を支えながら川へと入り、人々を担いで次々に向こう岸へと渡しました。
川渡しを始めて何日も経ったある日のことです。
レプロブスが小屋で休んでいると、外から子供の声が聞こえてきました。
「レプロブスさん、出てきて川を渡してください」
腰を上げて外に出るレプロブスですが、はたして誰もいません。
また小屋に戻って休もうとすると、また同じ声が聞こえてきました。
もう一度、外に出てみるけれどやっぱり誰もいません。
しばらくすると、また同じ声が聞こえました。
みたび外に出ると、川のほとりに子供が立っておりました。
「レプロブスさん、川を渡してください」
「ああ、さっきから聞こえていた声はきみだったか。いいとも、さぁわたしの肩に乗りなさい」
さっそくレプロブスは子供を肩に乗せて、杖を手に川へと入っていきました。
川は深くて流れも速いですが、もうすっかり慣れたレプロブスにとっては簡単な仕事のはずでした。
しかしどうしたことでしょう。
川はいつもよりも水嵩が増していき、子供も鉛のように重くなっていきました!
進んでいくほどに水位は増して、子供もどんどん重くなっていきます。
「ぬぐぐ、なんという重さだ」
レプロブスは不安になり、その重さで溺れてしまうのではないかと気が気ではありませんでした。
「ふっふっふっ、この程度で根を上げるのか、レプロブスよ」
なんとか踏ん張っていると、重々しくも清らかな声が耳に落ちてきました。
ぎょっとして見遣れば、なんと肩に乗っていた子供が非常に立派な体躯の男になっていたではありませんか!
レプロブスの肩に立ち、両腕を組んで見下ろしてくる男の顔は、パーカーのフードで隠れてよく見えません。
しかしただならぬ気配!
強い!
レプロブスはそう直感しました。
「何者だ!?」
「わたしが何者であるかよりも、おまえが何者となるか。それが問題であろう?」
「なに!?」
「おまえはこの世で最も偉大な王に仕えたいと思っているのに、どうして川を渡しているというのだ?」
「隠修士が教えてくれたのだ。こうしていればこの世で最も偉大な王の思し召しにかなうとな!」
「なるほど、殊勝なこころがけである。だが本当に思し召しにかなうか、このわたしが審判をしてやろうではないかーーーっ!!」
フードの男がレプロブスから飛び上がれば、川の底からリングがせりあがってきたではありませんか!
「ゲェーーー!? リングがあらわれたーーーっ!?」
あっという間に川上にリングが浮かび上がり、レプロブスはその上に立っていました。
「わたしの名はメシア! レプロブスよ、おまえが天上の主に仕えるレベルか否か、審判の刻だーーーっ!」
困惑するレプロブスへ、襲い掛かるようにメシアが両腕をがっちりと絡めて組合ました。
「こ、このロックアップはーーーっ!?」
「まずはおまえの力量を計ってやろうーーーっ! ふむふむ~~~」
レプロブスは愕然としました。
フルパワーで組んでいるというのに、メシアはびくともしません。
これまで生きてきて、レプロブスが腕力でかなわなかった相手などひとりもいませんでした。
それが互角!
いいえ、むしろ遊ばれている感覚すら覚えます。
「ふっふっふっ、レプロブスよ。なかなかのパワーではないか。しかし聖なる主に仕える男たるもの、パワーだけではならぬぞ~~~!」
いっそう力をこめようとしたレプロブスでしたが、ふっと手応えが霧散してしまいました。
瞬間、ガクンと前のめりに倒れそうになります!
完全にメシアに体幹をコントロールされ、股下と肩をがっちり掴まれてボディスラムをかけられました!
レプロブスの巨体がマットに叩きつけられました!
「どうした! そんなことでは真の主に仕えるなど夢のまた夢だぞーーーっ!」
「なにをーーー!」
激昂して立ち上がるレプロブスが素早く立ち上がってつかみかかります。
これをメシアは軽快に後退してやりすごします。
そして背中をロープに預けて、その反動でレプロブスへとラリアット!
レプロブスが吹き飛ばされんばかりにのけ反りますが、なんとか踏みこらえました。
「ぬぬぅ~~んっ! き、効かぬわ~~~っ!」
「やるではないか~~~! やはり肉体の強さは随一! 見込みがあるぞ、レプロブスよーーー!」
「抜かせーーーっ!」
レプロブスがメシアをキャッチ!
エクスプロイダーへと移行します!
ズガァンッ!
マットに叩きつけられたメシアからうめき声が上がります。
レプロブスは油断なくさっと構えなおし、メシアもゆっくりと立ち上がります。
「メシアと言ったな。肌を合わせておまえがただ者ではないのはよく分かった。おまえはわたしが求める、この世で最も偉大な王の使いであり、わたしの資格を問うためにやって来た! そうなのであろう!」
「ふっふっふっ、まぁその認識で間違ってはいないと言っておこう」
「ついに、ついにまみえることができるのか……わたしの真の王に!」
感動に打ち震えるレプロブスですが、メシアの鋭い張り手が乱打で襲い掛かります!
「それはわたしに実力を見せることができたならばだーーーっ!」
「やってみせる、やってみせるぞ~~~っ!」
俄然、気力を湧き立たせてレプロブスがメシアの張り手を防ぎます。
非常に強い圧力が、とてつもない回転数でガードを突き破ろうとします。
しかしレプロブス渾身の防御を破ることはできず、メシアの息継ぎで生まれる一瞬を隙に踏み込みます。
メシアの脳天に唐竹割!
この衝撃にはさしものメシアも一瞬だけ動きが止まります。
ここぞとばかりにレプロブスはメシアをがっちりと掴んで、アルゼンチンバックブリーカーの態勢で担ぎ上げました!
しかしレプロブスがしかけるアルゼンチンバックブリーカーは、その威力から「激流」の名を冠してこう呼ばれるのです。
すなわち、
「ぬおおお~~~っ! トラントブリーカーーーッ!」
「うおわぁ~~~っ!?」
メシアの背骨が悲鳴を上げます!
「さぁ~~~ギブアップしろ~~~っ! このままでは背骨が折れてしまうぞーーー!」
さらにパワーを込めていきますが、レプロブスの耳に届くのは不敵な笑い声です。
気づけば、力を込めてもメシアの背をこれ以上に反らすことができないではありませんか!
「レプロブスよ、わたしを担ぎ上げるのは悪手だったな! 一瞬で投げ技に移行すればよかったものをーーー!」
メキメキメキ!
なんとメシアの重さが、耐えがたいほどに増してゆくではありませんか!
「そりゃ~~~っ! 原罪プレス~~~ッ!!」
「ぐわぁ~~~っ!!」
この世界そのものと錯覚せんばかりの加重が、ついにレプロブスを圧し潰してしまいました!
マットに崩れ落ちたレプロブスを、メシアは無理やり引き起こして逆さに持ち上げてジャンプ!
空中でレプロブスを俵返しのようにひっくり返して持ち上げれば、頭上に放り上げたではありませんか!
そしてさかさまになったレプロブスの頭を肩に担いで、両足を掴みました!
メシアがレプロブスの両足を引き下げながら落下してセットアップされるこの技はーーーっ!?
「イスラエルバスターーーーーッッッ!!!」
ズガァァァンッ!!!
五体がバラバラになったかのようなダメージがレプロブスを駆け抜けます!
「ぐ、ぐはぁ~~~~~っ!?」
頑強さを誇るレプロブスも、このフェイバリットにはすぐに立ち上がることができません!
「これが試合だったら、テンカウントでKOであっただろう」
悠然と立ち上がるメシアが、倒れ伏すレプロブスを見下ろします。
「どうした、レプロブスよ。おまえが燃やす、王へ仕えたいという想いはこんなものか!」
激痛で思うように体が動かないレプロブスでしたが、その叱咤にも聞こえる言葉で力を取り戻していきます。
ロープを掴んで、ゆっくりと立ち上がります。
そして激昂のまま叫びました!
「おまえに……このわたしが抱え続けている想いの何が分かるーーーっ!」
「分かるとも!」
その怒号に負けず劣らぬメシアの一喝に、むしろレプロブスの方こそが気圧されてしまいました。
「おまえこそ、救世主を担う者! わたしはおまえがそれに足る男だと信じている、いやさ知っている! だからこそ、ここで立ち上がれるガッツを持っていると、確信しているのだーーーっ!」
「な、なぜ見ず知らずのわたしにそこまでの期待を……」
フードで隠れたメシアの顔が、ふっと柔らかく笑ったような気がしました。
「わたしはおまえの旅をずっと見ていたのだ。だからこそ、おまえならば闘い抜けると断言している」
父のような優しい言葉でした。
呼吸を整えながら、レプロブスの胸に熱い気持ちがこみあげてきました。
レプロブスはずっと、まだ見ぬ王を見ていました。
いつも、ずっと。
この戦いの中ですらです。
つまりそれは、目の前のメシアという男を見ていないということでした。
いいえ、これまで出会ってきた誰も彼もを、レプロブスは見ていながら見ていなかったと言えるでしょう。
ただ目に移らぬ偉大なる王しか見えておりませんでした。
今、メシアの嘘か真かも分からぬ言葉にこめられた大いなる「誠」に射抜かれて、レプロブスは目からうろこが落ちるような心地となってしまいました。
ようやくレプロブスは、メシアをじっと見つめます。
「メシアよ……あなたはそんなにも私のことを……」
「そうだ、信頼している」
「応えたいな……その信頼に……!」
「応えてみせい、レプロブスよーーーっ!」
メシアの低いタックルがレプロブスのシングルレッグを掴み上げます。
「むっ!?」
しかしなんたる体幹!
レプロブスは揺るがず、自由な脚でその顔面に膝蹴りを食らわせました!
この衝撃で緩んだメシアの手を掴んで、ロープへと放り投げました!
「ぬがぁ~~~っ! 四十文キック~~~ッ!!」
超巨大な足の裏が、リバウンドして返ってくるメシアの顔面に叩きこまれました!
「ぐはぁ~~~っ!?」
その威力たるや、もう一度メシアがロープまで吹き飛んでリバウンドするほどです!
「もう一発ーーーっ!」
「させるか~~~! レッグラリアート!」
二度目のリバウンドでは、メシアの軍配が上がりました!
巧みに反動を利用して跳び上がり、レプロブスの喉元にメシアのスネが叩きこまれます!
「ぬぬうぅ~~~っ!」
レプロブスが大きく吹き飛びながらも、ハンドスプリングで素早く立て直します。
「そりゃー!」
そこへ猛然と勢いをつけた、メシアのフライングニールキックが浴びせかけられます!
「ぬがぁ~~!」
それを腰を据えてキャッチ!
メシアが重くなる前に、持ち替えてオクラハマスタンピートでマットに叩きつけました!
「はっ!?」
叩きつけてから、レプロブスは首を振ります。
「違う、わたしがすべきなのは……こうではない……!」
「なにを迷っておるかーーーっ!!」
苦悩するようにわななくレプロブスを、メシアのそろえた両足がロケットのように衝き上がってきます。
「ぬぐ~~~!?」
これによって空高くに打ち上げられたレプロブスを、メシアが天空でキャッチ!
逆さに持ち替えて、
「この形はイスラエルバスターーー!?」
「さぁ、審判の刻だ! 二発目は耐えられまい! どうするレプロブスよーーー!」
ひっくりかえった視界の中、両足を掴まれて後は落下してしまえばジ・エンドです!
「ぐう、ぐうう! このままでは……」
しかしメシアのイスラエルバスターは完全な仕上がりでした。
体にかかるプレッシャーで思うようにもあがけません。
それでも。
足掻かぬまま、まさに技をかけているこの男の期待を裏切ってもいいでしょうか?
「敗けられぬ! このまま敗けてられぬーーー!」
決死の気迫と共に、レプロブスからパワーが溢れます。
沸き上がる聖人パワーのまま、レプロブスは腕を伸ばします。
そしてメシアの両足を掴み、
「ぬがぁ~~~っ! あなたがわたしを背負うのではない!」
なんと体勢を逆転させてしまいました!
「わたしがあなたを背負うのだーーー!!」
「なにーーー!?」
「リベンジイスラエルバスター!!!」
ズガーーンッ!
イスラエルバスターをひっくり返し、見事にレプロブスがメシアにその衝撃を叩き込みました!
「ぐ、ぐはぁ~~~っ!」
「まだだ!」
そしてメシアを担いだまま、レプロブスが立ち上がりました!
自らを手放さないレプロブスに、メシアが激昂します。
「馬鹿めーーーっ! もう一度こいつを食らいたいらしいな! さぁ~~~この重みに圧し潰されるがよいわ~~~! 原罪プレスーーー!!」
「ぐ、ぐ、ぐぬぬぬおおお~~~!」
世界そのものとも思える重みを担ぎながら、レプロブスはそれを懸命に耐えました。
「な、なに~~~!? このわたしを担いで耐え切るというのかーーー!?」
「それだけではない! あなたの期待を……今、越えて見せるーーー!!」
レプロブスがメシアを担ぐ形を変えれて、まるで肩車をするように技をセットします。
そして、
「うおおおおお~~~!!」
なんと原罪の重みを担ぎながらビッグジャンプ!!
たった独りで飛び上がるよりも、遥かにパワーを発揮して天空で反転!
「これこそが、わたしがあなたへ奉げるフェイバリットだーーーーー!」
メシアの脳天を真っ逆さまにマットへと叩きつけました!
「クリストポルスドロップーーーーーッ!!!」
ドガァーーーンッッッ!!!
かつてない衝撃がリングを揺さぶりました。
技をかけたレプロブス自身、激しい消耗でふらふらと足取りがおぼつきません。
それでも。
自らの足でしっかりと立ち上がりました。
「見事だ──」
マットに顔面が埋まっていながら、メシアが厳かにレプロブスをたたえます。
ゆらりと立ち上がったメシアの顔が、ぱかっと割れて神々しい顔が現れたではありませんか!
燦々と光り輝く顔は、直視できぬほどのまぶしさです。
レプロブスは気づけば、自然とひざまずいていました。
「メシア、まさかあなたこそが……」
「そうだ、わたしこそおまえが求める王である」
「やはり!」
畏れながら、レプロブスは期待を込めてメシアを見上げます。
「で、ではわたしはあなた様に……」
「そうかしこまることはない。望むまでもなく、おまえはわたしに仕えてくれているではないか。おまえの川守りは、まさにわたしが望む無償の愛のひとつの形である」
「ははぁー!」
「そしておまえは先ほど、この世界をまるごとその肩に乗せて、見事なフェイバリットを編み出してみせた。今日からおまえは「救世主を背負ったもの」、すなわちクリストポルスと名乗るがよい」
メシアが川の水をレプロブス、いやさクリストポルスへと注ぎます。
かつて己がされたように、クリストポルスを聖人レスラーとして洗礼を施したのです。
厳かにこの秘蹟を受け取ったクリストポルスは、感動のまま十字を切ります。
「さぁ、旅に出るのだクリストポルスよ! この世界に福音を伝道する旅へーーー! 聖人レスラーとして、おまえの助けを求める者たちへと手を差し伸べ、その苦悩を背負ってやるのだーーーっ!!」
聖なる光に包まれて、気づけばレプロブスは、いやさクリストポルスは川のほとりに立っておりました。
まるで今までのことが夢であった気分です。
しかしメシアとぶつかり合った感触、クリストポルスドロップを決めた感触はしっかりと手の中に残っています。
そして長く、長く想い焦がれた願いが成就した喜びが確かにその胸に。
顧みれば愚かなことだったのです。
この世で最も偉大な王、すなわち神に仕えることとは、どこかへ行き誰かにひざまずくことではないのです。
ただ想うだけでよかった。
ずいぶんと遠回りをしてしまったかもしれません。
しかし辿り着いたのです。
そしてここが終着ではないと、はっきりと理解できました。
澄み渡るような晴れやかな心で、神の教えを広めるためにクリストポルスは旅へと出かけるのでした。
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