第24話 学校へ行こう!
新宿にある私立・
容姿端麗で運動も勉強もよくでき、何より母親が「超」のつく有名女優である萌は、幼稚園、初等部(小学校)、中等部と、常に学校の女王として君臨し続けてきた。先生を含む周囲の人間から、自分が特別扱いされるのは当たり前だと思っていた。クラス内でも萌の取り巻き軍団が自然と形成され、いつの間にか自分専属の手下たちがいるような感覚になっていた。私がこの学年の女王様。それが自然の、
幼稚園から進学する度に、内部進学組(エスカレーター組)と受験組の割合が半々になる。幼稚園は一学年およそ50人。初等部(小学生)に上がると小学校入試で50人入学してくるので一学年100人。同様に中等部は200人、高等部で400人が同学年の仲間の人数ということになる。高校受験で入学してきた受験組200名の中の一人に、
郁未は勉強もスポーツも本当によくできた。試験では常に学年10番前後だった。女子には比較的珍しく、特に理系科目が抜群によくできた。かといってガリ勉というわけではなく、ちゃんと自分のためになる学びがしたい、というタイプだった。その割には苦手科目はなく、えり好みせずどの授業も真面目に聞いていた。学問でも競技でも習い事でも、「何を習うか」と同じくらい、いやそれ以上に「誰に習うか」は極めて重要である。大体どこの学校にも「○○先生が嫌いだからこの科目が嫌いになった」という生徒がいるもので、たいていは同情に値するのであるが、郁未はそういう傾向とは無縁だった。身体能力も高かった。「放課後は学校の勉強以外にも、将来を見据えていろいろと勉強する時間に充てたい」という理由で部活動には入らなかったが、球技大会や体育祭などではどの種目に参加しても女子の中でエース級の実力を発揮した。そしてそのことを鼻にかける様子も全くなかった。高校1年生の1学期が始まって2ヵ月もたつ頃には、クラスのほとんどは棗田郁未のファンになっていた。それまで圧倒的にクラスの女王格だった飛知和萌は、きわめて不愉快な思いだった。
さて。いじめというものは高等動物の本能なのかもしれない。猫も犬もいじめをする。このさき人間がどれだけ進歩しても、あるいは進化するほど一層、いじめを根絶することは難しいだろう。そしていじめは、いじめが起こる空間が閉じられているほど、そしてその空間にいる人間に均一であることが求められるほど、激化する。戦前の日本軍の若手間のいじめは凄まじかったそうだ。軍人として均一に仕事をこなせるような訓練を受けるからこそ、その基準に満たないものに対する攻撃が行われたのだろう。自衛隊や一部の警察にも、同様の風潮がひょっとしたら残っているかもしれない。そして、ある意味最も均一で、最も閉じられた空間というのが学校である。なにせ同い年の人間ばかり何百人も集まり、同じ科目を同じ先生に習うのであるから。
ただ、いじめというのは、自分より優れたものを攻撃対象に選ぶケースは少ない。このあたりが、人間のいじめも動物的な本能の延長であると考えることができる
ある日、萌は、わざと周囲のクラスメートたちにも聞こえるように、そしてできるだけ無邪気な感じを装って、郁未に声をかけた。
「郁未~。アンタん
その日からの動きは早かった。郁未にとっての地獄が始まった。
(つづく)
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