第21話 鬼に金棒、龍に〇〇

「よう、色男いろおとこ。大ピンチのようじゃの。」


重黒木がシャッターに空けた大穴から入ってきた男は、若いのに老人のような口ぶりで話した。女のように小柄な体つきと長い髪をしている。


「貴様ら、金熊童子かねくまどうじ星熊童子ほしくまどうじじゃな。」


名前を呼ばれた二人の鬼女おにおんなは、九頭龍凛太郎の方をまじまじと見つめる。

「!!…てんめぇ… 九頭龍だな。茨木の姉貴のかたき…!」

金髪の鬼が表情を変える。どうやら、勇千里いさむ ちさとのストーカーだった水内秀樹に取り憑いていた茨木童子と呼ばれていた鬼女とこの2体の鬼は、姉妹もしくは仲間であるようだ。


「この若いのは、もう十分よくやったじゃろ。鬼であるぬしらに、人の身でありながら力比べで勝ったではないか。ぬしらの負けじゃ」


「…うるさいわね。鬼のメンツってものがあるのよ」


「そうか…。に顔向けができんか」


「黙れ!」

星熊童子という名前であるらしい長髪メッシュの鬼が、九頭龍凛太郎に向けて金棒を振り下ろしてくる。殺意が十分に乗った一撃だ。凛太郎がヒョイとかわすと、星熊の金棒がコンクリートの床にめり込んだ。…この床はもうボロボロである。


「はー、物騒なモンぶん回しよって。あぶない、あぶない」

九頭龍凛太郎は涼しい顔である。


「うあぁぁー!」

星熊童子が2撃目を浴びせてくる。凛太郎はまたしても避けるが、避けるだけでは勝負がつかない。ふと床を見ると、金熊童子が取り憑いていた藤島正博が持っていた金属バットが床に転がっている。


九頭龍凛太郎は金属バットを拾うと、星熊の金棒をバットで受け流し、相手の腹部に蹴りを食らわせた。


「鬼と言えど、女子おなごの顔を殴るのは性に合わんのでな」


「…格好つけてんじゃないわよ…」


横で見ていた金熊童子が声をかける。

「星熊。一緒にヤるよ。いくら何でも相手が悪すぎる」


「…仕方ないわね。」


金熊と星熊が二人並ぶ。と、二体の鬼の境界が融合し、二つの体が溶けて混ざり合うかのように一体化していく。みるみるうちに、黒々とした鎧を身にまとった、大柄な女の鬼が姿を現した。


「…石熊いしくま童子か」


石熊童子と呼ばれた、金熊・星熊よりもふた回りほど体の大きな鬼女おにおんなは、金棒を両手に1本ずつ携えている。


二刀にとうか。少々厄介じゃな」


「…参る」

そう宣言すると、石熊童子の2本の金棒が次々に襲ってくる。両腕がまるで意志を持った別々の生き物のようだ。


「ほう!これは面白い!!」

九頭龍凛太郎はその攻撃を一本の金属バットで華麗に防いでいく。


一方の金棒をバットでいなし、もう一方をかわした一瞬の隙をついて、バットの一撃を石熊童子の体に叩き込む。


ガキィィン!


鈍い金属音が響く。衝撃は鎧に阻まれ、ダメージは全く負っていないようだ。対して、金属バットの方はさきほどから酷使され続けているのもあって、もうベコベコのグニャグニャの状態である。


「…こりゃあ…ちょっと不味いのぅ」

言うと同時に、次の金棒の攻撃が飛んでくる。九頭龍凛太郎は体操選手のように華麗な後方宙返りをすると、一旦距離をとった。


「やはり、人間の道具では対応できんか。こちらも、それなりのモノを使わせてもらうが、よかろうな」


九頭龍凛太郎の手には、どこからともなく現れた一振りの刀が握られている。さやの形状から分かる通り、刀身にりがなく、両側にやいばがある古代の直刀、いわゆる諸刃のつるぎである。が、凛太郎がゆっくりと左手で刀を持っていって腰に当て、抜刀の構えをとると、形状が日本刀へと変化した。


天叢雲あめのむらくも


凛太郎は刀の名を呼ぶと、そのまま刀を抜いて上段から、石熊童子の体を甲冑ごと真っ二つにした。



「さてと、若いの。ここで見たことは言わぬ方がよいぞ。言ったところで誰も信じはしまいがの」


「アンタ…何者だ?」


「儂か?天下無敵の九頭龍様よ。覚えておけ。」


「…」

自分と同じで、厄介ごとに巻き込まれる可能性を低くするために、鉄火場で正体は明かさないタイプか。賢明だ。


「動けるか?一人で帰れそうかの?」


「あぁ、まあ…何とか」


「…おぬしも、この藤島兄弟に用があってここに来たのであろう?すまぬが、この二人は儂のほうで連れ帰らせてもらうぞ」


「な…ちょっと待て… イッテテテ!」


「ホレ、無理するからじゃ。鬼相手に、よく頑張ったの。…まぁもっとも、おぬしの本来の力はそんなものではないようじゃがな。

 安心せい。悪いようにはせん。八方丸く収めるから、儂に任せよ」


「仕方ねー。あんたには命を助けてもらった恩がある。今回はあんたに手柄を譲るよ。」


「恩に着るぞ。…ちょっと動くなよ、色男。」

九頭龍凛太郎は、うずくまったままの重黒木のひたいに掌をかざす。パアアッと、淡い光とかすかな熱が、頭部から自分の体内に入ってきたように重黒木は感じた。


「あれ…」

さきほど金熊童子を投げ飛ばしたときに力を込めすぎて折れた奥歯が治っていくのを感じる。


「何してるんだい。」


「ハハハ。九頭龍といえば病気治し、これ常識。怪我も直せる。あまりホイホイ治し過ぎると、うえに怒られるんじゃがの。

…よし、これで、歩いて帰れるはずじゃ。」

九頭龍は重黒木の額にかざしていた手を下ろした。


「また、借りを作っちまったな、にいちゃん。」


「本当は、おぬしのかせを解き放ちたいところじゃがの。その権限は儂にはない。…時が来ればじゃろ。

 今、ぬしが本来の力に目覚めたら、儂が勝てなくなるのでな」


「…??」

重黒木は、何を言っているのかさっぱり分からない。


「近いうちに、おぬしとは決着をつけることになりそうじゃから」


(つづく)


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