第9話 教えてほしい
「教えてくれませんか。九頭龍のこと。」
九頭龍が、ちょっとやそっとのことでは起きないくらいグッスリと寝入っていることを確かめてから、七海は運転してくれている梅ケ谷に訊いた。
「…本人からは、どこまで訊いているのですか。」
「ほとんど何も。クズ君の…凛太郎君の何代か前の先祖がエラいお坊さんで、九頭龍をやっつけたときに、生まれ変わるたびに守護する契約を結んだ、ってことくらいです。」
「…十分、ディープな内容だと思いますがね。いいでしょう。あなたには知る権利があるでしょうから。
…何から知りたいですか?」
「えっと… 九頭龍さんは神様なの?いろんな神様の力を使えるみたいだけど…」
「霊界の決め事として、龍神を含めた神仏は、直接はこの世に干渉はできないようになっています。ただ…」
「ただ?」
「葛原さんのように、ある神霊に特別に守られ、その力を使うことができる人間が存在します。我々は『
大体前世で大きな功績を残した人間か、その神霊に濃い縁があった人間の生まれ変わりであることが多いです。葛原さんの前世の
「でも、クズ君はいろんな神様の力を使ってたけど…」
「はい。さっきも言ったように通常、神仏はこの世に過度な干渉はできない決まりになっています。
(七海は、
「おぬしの癌を喰ったら、ぬしの母堂のは来年まで喰えぬ」
と言っている九頭龍を思い出した。)
…ですから、現世に過度に影響しないように、使える力は神仏本来の力からすれば非常に限定的なものになっています。
例えば…ウチの江島は、弁財天女の守護を受けていますから、『弁舌』の力で人の心を掌握し、動かすことができます。」
「江島先生が…!だから『りゅーポイント』が国民にスムーズに受け入れられたんだ…
江島先生は、だれか有名人の生まれ変わりなんですか?」
「そうですね… ある征夷大将軍の奥方の生まれ変わり、とだけ言っておきます。」
「…何となく予想はついたけど…
あれ?そうすると、いろんな神様の力を使える九ちゃん…九頭龍は、ちょっとイレギュラーなんですか?」
「はい、その通りです。彼は特別な存在です。基本的に日本の全ての神仏の力を借りて使うことができます。一度にあまりに多くの神仏の力を使いすぎると葛原さんの肉体に負担がかかりますので、ハワイでは、
「どうして九頭龍にだけ、そんなに特別な力が?」
「…そろそろ、議員会館ではないか?」
突然、凛太郎の声がした。
「わっ!起きてたの?」
「お目覚めですか。今回もお疲れさまでした。」
「まったく。
「ははは、それはお互い様なのでは?」
七海は、梅ケ谷の笑い声をはじめて聞いた気がした。
♦
梅ケ谷が運転する車は、参議院会館に到着した。
「…では、これで。ハワイ州観光局から入金が確認でき次第、お金は国からギャラクティカに振り込まれる手はずになっています。」
「うむ。世話になるの。」
九頭龍凛太郎はニコニコ顔で手を振る。もう疲れは取れたのだろうか。やはり人間ではない。
凛太郎と七海は車から降り、参議院会館の駐車場に車を回す梅ケ谷を見送った。七海はぺこりと頭を下げた。
2人でタクシーを拾って帰ろうと、会館前のタクシー乗り場に向かっていると、九頭龍がふと気が付く。
「お、ちょうど江島のやつが出先から戻ってきたようじゃ」
江島議員は、自分の車が成田の駐車場にある間は、公用車で仕事先に出向いていたようだ。今日は議員公用車のクラウン・セダンに乗っている。会館前にクラウンが停まり、江島めぐみがその美しい姿を車内から現した。
すると。
「車を降りるのは私が先ですとあれほど言ったのに… もう銃撃の件を忘れたのですか?」
と言いながら、同じクラウン・セダンから出てきたのは、なんと、たったいま七海たちと分かれたはずの梅ケ谷であった。
「え、え…!?梅ケ谷さんが2人?…」
「…やつは、儂のことはべらべら喋るくせに、自分のことに関しては秘密主義じゃからの。
「梅ケ谷さんって…」
「…教えといてやる。やつのもともとの名前は、
またの名を、天神という。人でありながら、神の位に立った男じゃ。」
(つづく)
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