第五十九話 調査のための作戦会議。

 ビルフォードに弓の腕を認められたアーシェリヲン。銀の序列以上とされた、盗賊たちの潜伏先と考えられる宿場町跡の調査。鉄の序列だった彼も参加できることになった。


 地下で弓の腕を披露した翌日、調査のための打ち合わせに参加することができた。あくまでも名目は調査であるが、明後日の夕方前にはここを出る予定。現地の日の出前に攻め込んで証拠を集めるという力押しの調査になっている。そのため、銀の序列以上となっていたらしい。


 今回は、エリクアラード王国騎士団の精鋭も参加する。探索者協会協会と協力体制を築き、調査にあたることになるそうだ。


 ユカリコ教と探索者協会がエリクアラード王国に圧力をかけたことで、王国側は慌てて調査という緊急の依頼をし、早々に騎士たちの編成をも始めたそうだ。


 調査はあくまでも王国の騎士たちが主体で、探索者協会は支援する立場である。国としては誤魔化して放置するものなら、近年まれに見る最大の危機に陥ってしまうだろう。


 王国側の諜報部と探索者協会の探索者との連携で、ある程度主犯格を絞り込むことができている。ただ、王国が出した答えと、探索者協会が出した答えが合っているとは限らない。


 もしかしたら、王国として差し障りのない人物を生け贄に出す可能性もなきにしもあらず。だから今回、探索者協会側も実力行使に出ることになってしまった。


 ちなみに、探索者たちが先走らないよう、主犯格の情報は支部長のヘイルウッドと、ビルフォードしか知らない。アーシェリヲンは実行犯の一部は知っている。だが、主犯格は教えられていない。


 筆頭探索者であるビルフォードの指揮に従うことを忘れぬように、これ最後に打ち合わせは終わった。明朝、探索者協会に集合する。そこで馬車に乗り、現地を目指すことになる。


 短い距離だが、神殿までの道のりをビルフォードが護衛してくれる。大げさかもしれないが、どこに間者が紛れ込んでいるかわからないからだ。


「そういえばな、ガルドラン。あいつは元気にしていたか?」

「はい」

「あいつも俺の弟弟子だから、遠慮しないで頼るんだぞ?」

「はい、ありがとうございます。とても優しいですし、いつも食事を奢ってくれます。あの大きな手でガシガシ撫でる癖はありますけどね」

「あぁ、それな。おそらくだな、俺があいつにやったからなんだ。あいつがこんなに小さかったときにな」


 ビルフォードはメリルージュのように、親指と人差し指で僅かな間を作って見せる。確か彼女も同じようにしていたはずだ。ガルドランがビルフォードにガシガシ頭を撫でられる姿を想像すると、少し楽しくなってくるアーシェリヲン。


 これから馬車などの準備とともに、騎士団との調整が行われるとのことだ。アーシェリヲンは昼食をとるように言われ、神殿へ戻っていた。


 そのあと少し休んでまた探索者協会へ戻った。ところどころに見え隠れする探索者たちに見送られながら、アーシェリヲンが探索者協会に到着すると、地鳴りのような足音とともに、大きな人影が近づいてくる。


「アーシェの坊主っ、やっぱり生きていたかっ」


 探索者たちの間から、頭二つも三つも飛び抜けて大きな、長めの毛が特徴的な狼男。アーシェリヲンを見つけると近寄り、頭をガシガシ撫でてくる。


「が、ガルドランお兄さん、なぜここに?」

「何故も何もないだろう? 生きてるらしいって聞いてな、じっとしていられなくなったんだ。だから無理をいってユカリコ教の船に乗せてもらったんだよ」


 そんなガルドランより一回り大きな人影。彼の頭を同じように撫でる男の姿があった。


「……ビルフォードの兄貴、勘弁してくれ。俺はもう二十四だからよ」

「ん? 俺からみたらまだ少年みたいなものだろう?」

「ガルドランお兄さん、その、ご心配おかけしました」

「お、おう」

「照れるな照れるな、ほんと、ガキのころから変わっちゃいないな?}

「ビルフォードの兄貴だって変わってないじゃないか? もう五十になったんだろう? なんだよそのはち切れんばかりの筋肉は……」

「馬鹿野郎、俺はまだ四十八だ。お前の二十四上だ。計算もできないのか?」


 五十手前にして、現役の金の序列。鋼のような実践で鍛えられたとしか思えない筋肉の鎧。ガルドランさえ小さく見える巨体。


 この二人がアーシェリヲンの兄弟子。おそらく他にもいるかもしれない。逢えるかもしれないという期待で楽しくなってくる。


「あの、これからよろしくお願いします。ガルドラン、兄さん。ビルフォードおじさん」

「なんで俺だけおじさんなんだよ……」

「あははは」


 それでも二人ともなぜか照れている。ガルドランはアーシェリヲンの頭を撫で続け、ビルフォードはガルドランを撫でていた。


 アーシェリヲンは物資の積み込みを手伝う。重い荷物もあったが、彼が持つ『呪いの腕輪』があれば、移動くらいは容易い。倉庫から馬車へ、しばらくはそれを繰り返していた。


 夕方になり、ガルドランたちと夕食をとる。明日の朝は暗いうちから出立になるとのこと。少しでも寝ておくように言われる。アーシェリヲンは自分の部屋に戻り、仮眠することにした。もちろん、探索者たちが見守っているから安全は確保されている。ガルドランがこっそりついて行ったのは言うまでもない。


 アーシェリヲンが無事到着したのを見届けて、探索者協会へ戻ってくるガルドラン。部屋を借りようかと思ったとき、首根っこをひっ捕まえられて建物にある筆頭探索者の私室。ビルフォードにガルドランが連れてこられていた。


「まぁ座れよ」

「は、はい。兄さん」


 実の兄ではないのは見た目でもわかる。だが、ビルフォードはガルドランの兄弟子だ。そう呼ぶのは普通のことなのだろう。


「アーシェリヲン君がなぜ誘拐されたのか? 理由はわかっているのか?」

「はい。うちの支部にいる口の軽いヤツらが、外の酒場で酒に酔い、アーシェの坊主の魔力総量の多さと、『魔石でんち』の充填を口にしたのかと思います」

「まさか、誘拐に遭うほどのものなのか?」

「はい。『魔石でんち』をに二百は充填できるんです」

「……なんてこった、それはまずいな」

「はい。師匠の弟子だということは、それなり以上に周知されているはずなんです。ただ、外から来たやからには、意味をなさなかったんでしょう」

「なるほどな。『生きた魔石でんち』か。アーシェリヲン君は無事だったんだ。気にするな」


 ガルドランが痛いほど手を握り混んで、爪が手のひらに食い込んで、血が滲んでいるのが見えてしまった。ビルフォードはガルドランの頭に手をやって、力強く撫で続ける。


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