第五十四話 探索者協会での報告。

 翌朝、朝食をとりに隣室のリルメイヤーを迎えにいく。朝食を終えると彼女を連れて司祭長室へ。


「アーシェリヲンです」

『どうぞお入りください』


 ドアを開けてリルメイヤーを連れて入る。そこにはここの主人、司祭長のクレイディアがいた。


「初めまして。当神殿の司祭長を任されています、クレイディアと申します。狐人のお嬢さん、お名前を教えていただけませんか?」

「は、はい。私は、リルメイヤー。リルメイヤー・フェイルウッドです」

「……フェイルウッドというと、あの?」

「はい。フェイルウッドという小国の王女ということになります。七番目ですが」

「え?」


 呆然とするアーシェリヲン。


「それでですね、なぜフェイルウッドの王女様が攫われたりしたのですか?」

「放すと長くなるのですがその……」


 リルメイヤーはアーシェリヲンをちらりと見る。


(え? 僕がどうかしたの?)


「アーシェリヲン君」

「はい。クレイディアさん」

「探索者協会へ行かなくてもいいのですか?」

「あ、そうでした。では、リルメイヤーさんのこと、よろしくお願いします」

「えぇ、任されました。気をつけていってくるのですよ?」

「はい。いってきます」


 アーシェリヲンは司祭長室をあとにする。ここにいる限り、リルメイヤーに危険はおよばない。安心して外へ向かうアーシェリヲンだった。


 裏庭から通路へ。ドアをノックしてノックが返ってきたら開ける。雑貨屋には昨夜対応してくれた女性がいた。


「昨日からしばらくお世話になることになりました。アーシェリヲンと申します」

「話は伺っています。いってらっしゃい」

「はい、いってきます」


 外に出ると、確かにヴェンダドールのように寒くはない。ただ、アーシェリヲンにはエリクアラードという国に思い当たるものがない。どれくらいの位置にあるのかまったくわからないのである。


 探索者協会の場所を聞いたところ、なんと『れすとらん』裏のブロックにあるとのこと。道沿いをぐるっとまわって、こちらも見覚えがあるような気がする建物に到着。正面の看板に大きく、探索者協会エリクアラード支部と書いてある。


 アーシェリヲンは協会施設へ入っていく。すると入り口近くには総合案内の女性がいなかった。おそらくヴェンダドールの協会本部ではコレットがたまたま新人であの役目を与えられていたのかもしれない。


 受付に並ぶと、五人で順番が回ってくるようだ。このエリクアラードも人間と獣人などの種族が手を取り合って生きていると思われる。特に獣人の男女が手を振ってくれる。アーシェリヲンもいつものようにぺこりと会釈をして応じる。それが皆気に入ったのか、沢山の探索者たちが挨拶をしてくれた。


 ややあってアーシェリヲンの番がまわってくる。アーシェリヲンは受付に協会カードを散りだして渡す。


「あの、これ、お願いします」

「はい、かしこ――少々お待ちくださいね」


(あぁ、これってあれだよね。僕の話がここまで通達されてる感じ? そういえば神殿でも聞き忘れたんだけど、ここってどのあたりの国なんだろう?)


 受付の女性が戻ってきたと思ったら、父フィリップと同じくらいか少し上の感じがする男性が現れた。


「申し訳ありません。奥へお願いします」

「あ、はい」


 アーシェリヲンは、受付の奥へ案内されていく。途中、左右に部屋が数カ所あって、突き当たりには一つだけ部屋があった。もちろん、看板のような小さなプレートに書いてある。『支部長室』と。


「どうぞ、座ってください」


 鉄の序列の探索者に対して、何やら丁寧な言葉使いになっている。


 アーシェリヲンは座って、居住まいを正しておく。向かいに先ほどの男性が座り、後から入ってきた受付にいた女性が飲み物を持ってきてくれる。


「初めまして、私はこの探索者協会エリクアラード支部の支部長を任されています。ヘイルウッドと申します」

「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます。僕はアーシェリヲン・ユカリコレストと申します」

「間違いありませんね。よくぞご無事で……。アーシェリヲンさんの件は、協会全体の緊急案件になっています」

「僕の不手際でこのようなことになってしまい、申し訳ありません」

「いえいえいえ。アーシェリヲンさんのせいではありません。それで、どのような経緯でこちらへ?」

「はい、実は――」


 アーシェリヲンは、ヴェンダドールの林で起きたこと。こちらで目を覚まして脱出したこと。途中、隣の部屋に捕らえられていたリルメイヤーを助けて逃げ出したことなど。自分に不都合になりそうな所はぼかして、それでもなるべく細かく説明する。


「――ということでして、二人ほどきつく痛めつけてしまったんですが、大丈夫でしょうか?」

「なるほど。両手の親指と片足を切り落とした。それも二人ですね?」

「はい。そうです。この国の基準で、何かの罪になったりしませんか?」

「大丈夫です。少なくとも、この国のどこかに廃村か廃都があった。そこに盗賊らしき集団が住み着いてしまっている。それはこの国の落ち度であって、アーシェリヲンさんの責任ではありません。ご安心ください。というより申し訳ありませんでした」

「いえいえ。ですが、あの男たちの話から察するに、この国の誰かが僕たちを買い取ろうとしていたという話をしていたんです」

「なるほど。……こちらで調べておきます。それでその廃村らしき場所は、どこになりますか?」

「はい。街道をまっすぐに進んで、歩いて三日ほどの場所にあると思います」

「そうですか。おそらくあのあたりの廃村、いえ、宿場町だったところ、でしょうね」

「ところで、ヘイルウッドさん」

「なんですか?」

「鉄の序列で十歳の僕に、そのような丁寧な言葉使いをされているのは何故ですか?」

「まずはですね、その右手にある『呪いの腕輪』」

「え? こっちでもそう呼ばれているんですか?」

「そうですね。それは聖女ユカリコ様と同様、高い魔力を持っている人でないと使えないとされています。そのため、いずれ探索者を牽引する、白金の序列に至るかもしれないという人に渡されると私も聞いていました」

「なんてことですか……」

「それにですね、金の序列であるメリルージュさんのお弟子さんだと言うではありませんか?」

「はい。確かにそうです」

「少なくとも、探索者協会にとってアーシェリヲンさんは宝なんです。それならば、敬意を払うのは普通ではありませんか?」

「そうなんですかね……。僕にはよくわかりませんけど」


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