第7話

次の週も結局は公爵家令息の調子が戻る事は無かった。

調子が悪いのではなく本来の実力なのだから戻るも何もないのだ。

都合の良いことにまたランクを下げて活動を行う事となった。

俺は前週同様に単独行動でノルマを熟していく。

ノルマと言うのは薬草の採取とその他の特殊採取の素材の確保だ。

PTのメンバーたちからはお荷物と思われているがこの採取に関しては一目置かれている。

公爵家令息も言葉では「認めない」「使えない」と言うが、事採取に関しては文句を言わない。

自分自身がこの採取により各種恩恵を受けていることも理解しているので文句は言えないのだろう。

戦闘に関してはお荷物と思われているのでランクを落として活動する場合は俺だけ単独行動しても文句は言われない。

今日も今日とて単独行動なのだが、早速レプリカ腕輪の効果が出た。

何時以来だろうか?少し体の調子が良くなった感覚を感じたので鑑定で自分を見てみると、LVが1上がっていた。


「おお、久しぶりのこの感覚、やはりLVUPか・・・」


何だろうか、感動してしまい少し涙ぐんでしまう俺・・・

たかがLV1されどLV1なのだ。

正直言ってLVUPしない期間が長すぎてあの悪魔の腕輪を外しても本当にLVが上がるのかは半信半疑であった。

しかし、LVUPしたことで確証に変わった様な気分である。


「それにしても4日でLVが1上がったが、まだまだ遠いな・・・」


今までの事を考えると直ぐにでも逃げ出したいが、直ぐに逃げ出しても追手を掛けられて秘密裏に処分されて終わりになる想像しかできない。

逃げる為にはまだまだLVを上げる必要もあるが、資金調達や逃げた後の事も色々考えないと自分にとって最悪の結末が訪れるだろう。

ただ逃げるだけだとお尋ね者一直線であることは間違いない。

今考える事ではないと頭を切り替え今日も狩りをして経験値を稼ぐ。

今現在俺の居るのは先週に引き続き魔の森である。

時期的にも希少植物が生える時期だったのでそれも理由にして連続でここに来るように仕向けた。

侯爵家令嬢からは「他でも採取できるだろう」と言われたが、「単独行動で採取できるのはここだ」という言い訳でここに居座る様に仕向けた。

PTメンバーの目がある場で狩りは難しいし、経験値的なものも俺に入ってこない可能性を考えて別行動でいいから採取させてほしい事を願った。

さて、何時もの様に採取をし終わると狩りの時間だ。

勿論、狩りをしつつも周りを見ながらおいしい採取物は取ることを忘れない。


「前方よりマーダースパイダー」


誰が聞いている訳でもないが独り言を言いつつ魔物と対峙する。

武器は何時もの様にミスリル製のスコップを構えてマーダースパイダーに相対す。

この魔物は単独行動で敵を襲う。

蜘蛛の魔物であるが、待ちの狩りではなく責めの狩りをする魔物で、移動しながら獲物を探し見つけると隠密行動よろしく隙を突いて襲ってくる。

強いか強くないか言うと俺の今のLVだと強敵ではあるが、防御は弱いので隙さえ突かれなければ対処しようのある魔物である。

わざと隙を作り襲ってくる瞬間を待つ。

まだサーチを覚えた訳では無いが、気配察知と言うスキルが生えた。

このスキルのいい点はアクティブスキルで、何となく敵の接近とかの情報を感覚的に知る事が出来る。

マーダースパイダーと判別したのはこのスキルの情報によるものではなく、このエリアでこの魔物の行動からの推測ではあるが間違いは無いだろう。

気配が木の上、つまり俺の頭上へと移動した。

この魔物の手ごわい部分はこの隠密行動で近付いて来て一撃を入れて来ることだろうが、位置を把握できれば対処は断然楽に成る。

気が付いていない振りをしながら移動すると頭上から落ちて来た。

堅い前足の一撃を俺に見舞う予定だったようだが、俺が先に相手の首目掛けてスコップを突き立てた。

「ギィー」と鳴いてマーダースパイダーは絶命した。

最近の俺のスコップ捌きは中々の物だと思う。

勇者なのに武器はスコップでスキルが斥候や錬金術師、薬師などのスキルが多いと言う勇者とは思えない状態ではあるが、戦えない訳では無い。

元々はちゃんと勇者勇者していたのだ。


「さて、この蛛から取れるのは糸袋と足と牙だったな」


マーダースパイダーの糸袋は高級目の繊維素材の材料で中々の人気ある素材だ。

足は食材で、茹でるとカニ足の様に赤くなり食べられるらしいが、食べる気にはなれない。

牙は討伐証明部位となる。

それと、魔石が取れる。

マーダースパイダーの魔石はまぁまぁの大きさの物である。


「さて、次に向うか」


少し歩くと川がある。

ここでは魚を釣る予定である。

魔の森などの魔力のあるフィールドで取れる魚は身に魔力を含み美味であり人気食材なのである。

これを取らないのはもったいないが、PTのメンバーは貴族で食べ専なので俺が釣りとか知ると嫌な顔をする。

取れた魚は食べるくせに「そんなことをするのは下賤の者の仕事だ」とでも言いたそうな目で見て来るが、今はそんな者たちは居ないので堂々と魚を釣ろう。

釣りはマーダースパイダー謹製の糸に釣り針を付け木の枝に括りつけて釣り針に餌となる物を付けて川辺で糸を垂らせば魚が釣れる。

このエリアで魚釣りをするような物好きは俺位なので魚は簡単に仕掛けに掛る。

爆釣と言えるほどに釣れるので次々に釣り上げていく。

実はこの魚は自分で食べてよし、仲間の機嫌取りに良し、いい小遣い稼ぎとなって良しと良いこと尽くめであるので実は切らさないように心がけっている。


「ん~ん~ん~~~ららららら~♪」


鼻歌を歌いながら釣りを楽しんでいると近付いて来る者たちが居た。


「あらあら、お気楽ですわね」


見なくても解るが、そちらを見ると案の定PTメンバーたちであった。

どうやら様子を見に来たようであるが、最近は単独行動時に大体の予定を伝えるように言われている。

別れて行動しているのだからそっちはそっで何でもすればと思うが、ポーターに料理人にPTのあらゆる雑用をやって来たからか昼飯の用意は俺の仕事だとでも思っている様で昼飯の催促にやって来たようだ。


「あ~今釣った魚を焼きますから待っててください」

「はい、お願いします」


王女様がにこやかに言うが、もうお前には騙されないぞという思いがある。

最近は王女の様子も少し余裕が無いように思える。

情夫の公爵家令息の不調が原因であるのかもしれないが、少し棘のある言い方をするようになったのは多分色々とストレスがありそのはけ口としているのかもしれないなと思えた。

勇者を貶めるこれまでの行動は国の主導ではないのかもしれないが立場を考えると油断は出来ないので今までの行動や言動を変える愚を犯さない様に気を付けている。

釣りを一旦止めて食事の用意をする。

今日のメニューは焼き魚がメインである。

魚を捌き内臓を取ったら串を打ち塩を振って焚火の周りに挿す。

そして、それとは別に魚を三枚に下ろし身には塩コショウをふり、小麦粉でコーティングする。

網を取り出して骨の付いた部分を焼いて行く。

焼けるのを待っている間に適当に野菜を切り置いておく。

火おこしと後直ぐにお湯を沸かしておいたのでその鍋に焼いた骨の部分を放り込み煮込む。

煮ている間に焼き魚の串を廻して火に当たる位置を変える。

そして、フライパンで塩コショウした魚で味付けした魚を焼いて行く。

出汁が取れたことを確認したら煮ていた骨を取り出してその中に野菜を放り込み煮て行く。

焼いていた魚も放り込み塩で味を調えてスープを完成させた。

更に、丸パンを取り出して2つに切りながら焼き魚の火の当たる位置をまた変える。

パンも網の上で軽く炙りながら焼き魚を見るとどうやら完成の様である。

パンも炙り終わると今日の昼食の完成である。


「出来ましたよ」

「あら、ありがとう」


そう言いながら焚火の周りで食事を始めるメンバーだが公爵家令息は物静かだ。

まぁ気落ちしているのだろうが何か言えば八つ当たりされるのは解っているので触らぬ何とかである。

そんなことを考えていると、侯爵家令嬢が俺に語り掛けて来た。


「本当にあなたの料理はおいしいですね」

「お褒め頂きどうも」

「褒めていないわよ?勇者なのに料理人みたいね」

「・・・」

「勇者なんて辞めて料理人にでもなったら?」

「勇者って辞めれるんですか?」

「馬鹿ね~勇者は戦えなくなるまでは勇者よ」

「それって・・・」

「死ぬか年を取って勇退出来れば」

「死か勇退・・・」


俺が絶句していると、王女が話し出した。


「勇者様に失礼でしょ」

「え?」


侯爵家令嬢に王女は注意したが、注意された令嬢は驚いている。


「実情はどうあれ勇者は勇者よ」

「失礼しました」

「解ればいいわ」


いやいや、俺に謝って無いからね!!

本当に此奴らは・・・

PT結成時の令嬢と今のこの令嬢は180度態度が違い過ぎて同じ人物とは思えない程だが・・・

PTメンバー全員がそんなもんなので令嬢一人気にしても無意味な事に気が付いた。

彼・彼女たちは食事が終わるとそそくさと立ち去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る