第4話
俺は勇者の腕輪(笑)のレプリカを作成することとした。
鑑定のスキルを持つ者は俺以外にPT内に居ないので精巧に作ればバレないと思われる。
何処かに依頼するとそこからバレる恐れがあるので、自分で作成する事となるが、これも問題無い。
陰キャラのオタクであったが得意分野の一つにプラモデル作成と言う趣味があったのだが、こちらの世界に来た時にスキルとしてして何故か鍛冶と造形等の幾つかのスキルに還元されたようでレプリカを作ることは造作もない事だ。
本当にご都合主義的な事であるが、今は非常に助かることである。
しかし、勇者には不要なスキルのオンパレードで、LVが上がらなくなってから1年を少し過ぎた位でお荷物化してからは詰られる内容の1つとして無駄なスキルが多いと言われるようになったが、これらの無駄と思われていたスキルが色々とこれから行動に移す上で役に立つとは詰っていた者たちには全く思っていないだろう。
そして、俺の固有スキルは「倍化」と言うスキルなのであるが、昨日やっと人物鑑定もLVが上がったようで詳しく確認する事が出来た。
このスキルは自分の能力を2倍にするものらしいのだが、LV30でLVが止まった事により大体こちらの人間のLV45前後位の能力になっている様である。
ここまでは大体大まかに知っていた。
しかし、ここから先が新事実で、俺とPTメンバーの実力が大きく異なることになる要因ともなっていたようである。
それは今回の鑑定の結果で解ったことであるが、この「倍化」のスキルはPTにもこの効果が波及する様で俺がPTメンバーと認識した者に1.5倍の能力が付与されるようである。
実に勇者らしいスキルだと思うが、俺にとってはそれが余計に風当たりを強くさせる要因の1つとなっていた訳である・・・まぁ今更だな。
召喚時に魔道具で確認してもらった時には倍化の説明にPTバフは無かったのでLVUPして行くと特定のLVで解放されるとかそういった類の事なのかもしれないが、今更確認することも出来ないだろうから取り合えず置いておき、このPTバフをどうするかである。
特にON/OFFの方法も解らないが、何かしらの手段でOFFにも出来るのではないかと考えられる。
「認識」と言うところに何かポイントがある様な気もしないではないが、若しかすると言葉で言ってON/OFFの切り替えかもしれないので検証する必要があるだろう。
幸いにしてそのチャンスは幾らでもあるので、この際なので確認をすることとしよう。
今日の戦闘中にこっそりと色々試したが、特に今の段階ではON/OFFが出来ている実感も無いし彼・彼女の動きに異変も無い様だ。
さて、困った。
OFF出来るのであればこっそりと僅かな仕返しが出来ると密かにほくそ笑んでいたのだが・・・いや、まだ検証を始めたばかりだ諦めるには早いだろう。
休み明けの今日は王女エカチェリーナと公爵家令息アランの2人が気怠そうにしていた。
2人の事を心配そうに聖剣使いのエリザベートが声を掛けると昨日の公務で疲れたと言う2人。
公務とは街をぶらつき夜の良い時間に連れ込み宿で格闘技をすることなのだろうか?
まぁ違うのは解っているが心の中で「次の日に影響する程肉弾戦を頑張るなよ」と思ったが勿論のこと口には出さない。
「おい、カス、何時もの薬は無いのか?」
「薬?・・・ああ、体力回復薬?」
「それだ!!早く寄越せ!!」
此奴らにこれを渡すのは業腹だが今まで渡していたのに急に渡さないのも変に疑われると思い心の中で悪態を吐きながら2人に渡した。
この体力回復薬は俺のこの数年間の努力の結晶とも言える物の1つである。
この世界には体力を回復すると言うのは体を休める位しか無くて過去の勇者たちも自分が体力があることに無意識だったらしく異世界から来たんだからこちらの世界の人間より丈夫位にしか思っていなかったようで、回力回復薬などは作らなかったようだ。
しかし、俺の場合は自分がお荷物だと勝手に思いPTの為と色々と工夫をした結果産れた薬で俺以外にはこの薬の製法を知らない。
1錠で効果が高い栄養ドリンクを飲んだ位の体感を得られるので可成り重宝されている。
しかし、PTメンバーに騙されて言い様に利用されていると考えると全てが空しく感じやる気が沸いてこないが、今、何か行動に移し疑われる様な事があれば逃亡計画も無駄になると思い我慢した。
人間は目標を無くすと怠惰になる。
俺の目標を決める必要があるかと言えばもう言うまでも無く決まっている。
逃亡だ。
逃亡する為には資金と1人で生きていくための力が必要だ。
資金は今貯めている分で当座は大丈夫だろうが問題は力だ。
早急に勇者の腕輪(笑)のレプリカを用意しよう。
次の休息日に色々と動けるようにと手配をしておいた。
早いものでその休息日がやって来た。
最近馴染みとなった鍛冶屋へ頼み込んで火事場などを借りれることとなった。
作るのは爪切りと言う事にした。
こちらの世界の爪切りは如何するかと言うとナイフで長い部分を先ずそぎ落とし、やすりで整える事が一般的で、便利アイテムの爪切りなど存在しなかった。
過去の勇者も召使に傅かれて爪切りもお任せなので便利グッズなど作っていなかったようだ。
これは商売のタネになるが鍛冶屋に鍛冶場を借りる代価の一つとして提供することとなった。
もし、俺が逃亡した場合はこの鍛冶屋も何かしら詮議される可能性もあるので気前よくこの技術を提供しよう。
鍛冶屋の親父に爪切りを作るところを見せて幾つかの爪切りを作成しながら説明をして参考品として1つ親父に渡した。
他にも作ってみたいものがあるからと言って親父を追い出して早速作業開始した。
本当にご都合主義的に勇者は前の世界での色々がスキルとして統合されて出来ることが多いので助かる。
現代日本の一般的男子学生が鍛冶をするとか無理なのでそれが出来ると言う事が不思議ではあるが非常に助かる。
色々な無駄な事を考えながらトンカンやっていると腕輪が完成した。
先ずこの腕輪の装飾を勇者の腕輪(笑)に出来るだけ近づけるように作り込む。
これもあら不思議簡単に出来上がった。
並べて見ても何方が本物なのか解らない程の完成度で自画自賛してしまう。
まぁ神か悪魔か知らないがこの恩恵を与える仕組みを作ってくれた謎の存在に今だけは感謝しておこう。
作成したレプリカ腕輪を鑑定してみる。
腕輪:ノーマル級
この世界の品物にはグレードがあるとのことだ。
粗悪品以下は鑑定してもグレードが出ないらしいが普通並みの物以上であれば品質によってグレードが出るようで、ゲームみたいだなとは思ったが便利なのでそこはスルーしておこう。
多分この世界を作った謎の存在がそうデザインしたのであろう。
一応はこの国にも創世神話と言う神々がこの世界を作る物語があるらしいのだが、人至上主義の偏見に塗れたこの国の歴史書の信憑性を俺は疑っている。
他の国と同じであれば信じるかもしれないが、残念ながら今の段階では鵜呑みする程俺も馬鹿では無いと言いたいが、来た当初は疑いを持たないでそんなものと認識したが今は半分信じていない。
逃げ出した先のこの国以外の国の本を見て判断すればいいだろう。
話しが逸れて来たな。
物にはグレードがあるって話だったな。
グレードは以下の通りである。
ノーマル(一般)<ハイノーマル(上級)<スペシャル(特上)<レア(希少)<ユニーク(特質)<レジェンド(伝説)<ゴッズ(神話)<ジェネシス(創世)
何処に行って何をしたかと王女に聞かれた。
逃亡を疑うと言うより何時もの事なので何か監視とか思惑があってのことだと思うが嘘がバレて事が大きくなったりすると逃亡時の足枷や何か疑われても困るので表向きの理由として爪切りを上げて説明すると、「便利そうね」と言って1つ奪われた。
想定内なので心の中でニンマリと微笑んだ。
★~~~~~~★
最近、勇者のヒデオが少し変な様な気がする。
何が変と言われると困るが、以前に見た申し訳ない様な卑屈な様な視線を私たちに向けなくなったような気がする。
勇者召喚されて来た彼は私の婚約者となった。
国王である父の命で私は選択の余地も無く婚約者となった。
勇者と結婚できると最初は喜んだが、召喚されて来た彼を見てガッカリした。
王女には義務があり召喚された勇者のPTに必ず選ばれる。
簡単に言ってしまえば勇者へのハニートラップ要員としてである。
何故そこまでする必要があるのかと言えば、王家に勇者の血を入れ稀に先祖返りと言われる希少な固有スキルを王家が得る為である。
私の能力も過去の勇者の能力の一端であると聞かされている。
選ばれる基準はその時召喚された勇者の年齢に近い事と勇者との活動で何かしら出来る者の2点である。
年も近く回復魔法が使える私が今回選ばれた。
私自身がこの結果を当然と思うがそれが仇となった。
勇者に憧れを抱いていた私は勇者の婚約者となることに不満は無かった。
カッコよく逞しく優しく誠実でそして何より強い勇者を夢見ていた私にとって勇者ヒデオは勇者への幻想を打ち砕く程のショックを私に与えた。
何あのヒョロヒョロでオドオドした男・・・
髪もボサボサで猫背で卑屈に見える。
最悪である、最悪である、最悪である!!
このままでは・・・私はある計画を考え実行に移した。
そしてそれは成功した。
このまま行けば国は彼を勇者失格として彼の勇者としての身分を剥奪するだろう。
そうなれば私は自由の身である。
あと少し、あと少しの我慢である。
しかし、最近の彼の様子が・・・いや、考え過ぎなのかもしれない。
計画が順調過ぎて不安になっている私が見る幻視なのだろう。
気にし過ぎてそう視えるだけだ。
「何処に言ってきたの?」
「鍛冶屋に行ってきました」
「お買物かしら?」
「いえ、思いついた物があって作る為に鍛冶場を借りました」
「そうなのね・・・何を作ったの?」
「これです」
そう言って彼が私に見せる謎の物体。
説明を聞き、実際に彼が自分で試すと凄く便利そうな道具だった。
「1つ貰うわね」
「あ・・・はい、どうぞ」
何時もの彼だ・・・やはり考え過ぎで私の杞憂だったのかもしれない。
彼が作った「爪切り」と言う道具は特に必要とは思わないような道具ではあるが、使ってみれば思いのままに爪の手入れが出来た。
異世界人の知識は侮れない。
この爪切り一つ見ても判る様にこの世界の常識外の物で然も使えば解るが便利な品物である。
勇者失格として勇者を追われても何か理由を付けて下僕として彼を飼殺すのも良いかもしれないわね。
王女は機嫌よく爪切りを姿見の鏡のある化粧台の上にそっと置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます