第19話

 栄えた駅の近くであれば、一つくらいはあるようなゲームセンター。

 そんなどこにでもあるようなゲームセンターを前にフードの男は佇んでいる。

 ゲームセンターからの光は男を照らし、一瞬しか見れなかった男の顔をあらわにする。


 その姿は先ほどの光景が真であることを証明していたが、一つだけ重要な部分を見逃していた。

 それは........彼がイケメンだったからだ。それも俺なんかが言葉で表していいのかわからないほどの美形だったからだ。

 例えるなら、100年に1人のイケメンとか、少女漫画に出てくるようなイケメンとか......とりあえずそういうレベルのイケメンだった。


 そんな非現実的な彼がどこにでもあるようなゲームセンターを見つめている姿は幻想的で先ほどまで全力で走っていたのが嘘かのように呼吸を忘れ、その場に呆然と立ち尽くしてしまう。


「……おい、お前。」


 いまだにゲームセンターの方へ意識は向いているであろう彼の言葉でぼんやりとした意識をはっきりさせた。


「ここは何だ?」

「……え〜と、ゲームセンター、ですけど...」


 何だ今の質問? ゲームセンターも知らないのか?

 ……でも、彼の見た目からして日本人という感じではなさそうだから、知らないってこともあるのか。


「そうか、これはゲームセンターというやつなのか...」


 興味深そうに見つめる彼の姿は本来の姿とは異なり、どこか子供らしいように見えた。

 そんな姿に少し緊張感を緩めてしまいそうになるが、頬を叩き、緊張感を取り戻す。


 ーーだが、それでも彼のことが気になってしまう。


「今までにゲームセンターを見たことはなかっ彼の前まで進んでいた。たんですか?」

「……そうだな。俺の住んでた所にこういうのは無かったな。」


 どこか悲しげに言う彼の姿に先ほどまでの決断は泡となって消え、いつの間にか俺は彼の目の前で立っていた。


「……これ、やるか?」


 ポカーンと口を開けた相手の事など気にも止めず、店の前にあるゲーム台を指差し、話を進める。


「べ、別に興味はねえけど、やりたいって言うならやってもいいぜ。」


 呆気に取られていたのも一瞬で問いかけにはややツンデレ?みたいに返してきた。

 その姿を可愛いとかは思わないが、好感は持てってしまうような雰囲気はあった。


 財布からおもむろに100円玉を取り出し、店の前にある小さなクレーンゲームの機械にお金を入れる。


「……ヤッフー、右に動かしてね。」

「うわっ!! こいつ、いきなりしゃべりやがったぞ!!」

「ゲームも始まってないのにそんな騒いでたら後まで体力持たないぜ。」


 そこら辺にいるような子供よりもいい反応をする彼のことを面白く感じて、少し調子に乗ってしまう。


「一旦、落ち着いてみてろよ。」


 素早く正確な手捌きでクレーンを動かし、小さな子猫の人形の真上まで行く。


「ここだ!!」

「うおぉ〜〜〜!!」


 クレーンゲームをしているだけなのにここまで喜んでくれるのは単純に嬉しい。だが...


 スカッ


 想像以上に軽い、フェザータッチのようなクレーンの動きで人形を爪先でなぞるだけで終わった。


「……これは良かったのか?」


 何が正解なのかも分からなそうにただ夢中で中にある猫の人形を見つめている。

 本当にクレーンゲームを知らないのか......,


「……お前もやるか?」


 取れなかった悔しさや恥ずかしさよりもこの子を楽しませてあげたいという気持ちが強くなっていく。


「お〜まじか!! やるやる!!」

「なら、ここに百円玉を入れて..........」


 俺よりも一回りも大きいはずなのに無邪気な子供のように夢中となり、さきほど追いかけてきた人物と同じ人格なのかも分からない。


「……お〜!! 取れたぞ、取れた!!」

「良かったな。」


 うん、もうダメだ。

 何だか彼のことを純粋に可愛く思えてしまう。

 この光景を永遠に見てても飽きなさそうなほどに心が穏やかになって...なって..........


 な.....って............あれ、何か忘れているような?

 何か、何か........うん? 

 そう言えば、何か約束があったような.......あ。


「あ〜!! 約束忘れてた!! すまないけどやること思い出したからじゃあな!!」

「お、おい........」


 彼には悪いが、こっちも先約があるのだ、許してほしい。 

 

 疲れた身体に鞭を打ちながら夜となる街を駆け抜けって行った。


〜〜〜


「何だあいつ? 急に走ってどっか行きやがって。」


ドサッ


「ん、何だ...お、おう!! 獲れた、獲れたぞ!!.....って、あいついなくなってんだったな。」

「……はぁ、今日はもういいか。疲れたし、それに........」


 一人ぼんやりと雲がかかっていた夜空と子猫の人形を見つめる。


「……久しぶりだったな。」




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能力を消す能力を持つ男、現実世界ではただの凡人。けども、異能少女達には強いようで。 アルケミスト @aruchemist

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