第18話

〜〜〜♫♫


「………あ〜もうこんな時間か。」


 夕方を知らせる音楽があたりに鳴り響く。

 春は過ぎたが、夏と呼ぶにはまだ早いこの時期。そんな時期だからこそ、夕方と呼ぶようなこの時間帯でもだいぶ暗いままである。


 それにしても長い間走ったな。

 発見が特に何もなければ20時頃に楓さんたちと合流するという予定だったから、そろそろこっちも切り上げて移動するか。


 待ち合わせ場所は駅近くのファミレスで、それほど離れている場所ではないし、休憩をする意味でも少し歩くか。


 色々なことを考えながら歩いていると、すっかりと辺りは夜と呼ぶに相応しいほど暗くなってしまい、心地よい夜風が喜びに満ちていた筋肉たちを眠りへと誘う。


「あ〜最高だ。」



「何が最高なんだ。」


 突如として、聞こえた声に驚きながらも視線をそちらに向ける。

 

 そこには黒いフードを被った俺と同じかそれよりちょっと小さいくらいの長身で声色からして男性らしき人物がいた。


 そう。この人物はこの場においては不審者と言われてもしょうがないような見た目をしてしまっているのだ。

 しかも人がいなかったであろう場所から音もなく、現れたのだ。


 もしかして、猫行方不明事件の犯人はこいつなのか....


 頭の片隅でそんなことを考えながら彼が質問した意図が気になり、会話を続ける。


「……最高ですか......自分で言っておいて申し訳ないですが、何がと言われると困りますね。」

「強いて言うなら落ち着かせてくれるこの雰囲気、とかですかね。」


 不審者らしき人物が相手でも『筋肉の喝采に鎮魂歌が流れ始めたところだったからなんで言えるわけもなかった。


「そうかい..........俺は嫌いだね、夜なんてな。」


 そう言うと、どこからともなく風が吹く。

 そして、雲に隠れていた月までもが姿を現す。


「……ちっ。」


 その月の姿を見るやいなや、先ほどよりもイライラした様子で深くフードを被り直した。

 その一瞬だけではあるが、月明かりで照らされたフードの中を見ることができた。

 銀色と呼ぶにはあまりに澄んでいて、白色と呼ぶにはあまりに輝いている、そんな日常では見られないような髪色と、髪と同じように透き通った白に近い色の肌を。

 ただ、それも本当に一瞬であったため、自分が見たものの真偽を図ることは出来なかった。

 実際、やり方としてはいくらでもあるが、そのどれもが初対面かつ怪しそうな男にできることではなかった。


「……まぁいい。ならもう用はないから行っていいぞ。」


 横暴な態度に少しイラッとはしたが、これで離れられると思えば安いものだった。


「俺も早く猫を探さないといけないからな。」

「そうですか。それでは頑張ってください。」


 男の発言に内心ドキッとはしたものの、平常心を装ったまま足早にその場から逃げ出すことができた。


 やばいやばいやばい!!

 絶対あいつは今回の件について何かを知っている。だから、早くここから........


「いや待て。」


 解放されると思ったのも束の間、彼の声によってまたもや俺の動きを止められてしまった。

 こいつは何がしたいんだ!?

 ……いやそれよりも、もしかして猫探しのことが気づかれたか。


「やっぱり気が変わった。」この辺りを観光しようと思っていたからお前が案内しろ。」

「はぁ.........?」


 はてな混じりのため息にも似た声が漏れてしまう。


「だからさっさとどこかいい場所に連れて行け。」

「すいません。これから予定が入っているのでそれでは!!」


 先ほどまでの疲れを見せないほどの軽快さで町方面に向けて翔け抜ける。


「おい、待て!!」


 声の発された方向に振り返ることは出来ないが、鬼の形相で迫ってきているような気がする。


「聞こえないのか!! さっさと止まれ!!」


 怒気を強めた言葉で一瞬、体が強張る。

 しかも、足音から推測される距離は開いてない気がする。


 やばいだろう。なんでこんな離せないんだよ!!


「だから、さっさと.............」

 

 しかし、そんな時間も長くは続かず、数分が経とうとしたところで男の声は突如として聞こえなくなった。


 やっと離したか。

 心臓はいまだにバクバクとしているが心内としてはとても穏やかになった。だがそれでも自分の目では確認しておらず、走りながら恐る恐ると後ろを振り返る。


「……」


 そこで俺が見た光景。

 何ともない様な日常的風景。 

 日は落ち、暗闇を照らす街明かり。

 そんな中、フードの男はただ一点だけを見つめる。

 夜など関係なく、光り輝くゲームセンターを。


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