第17話

 服装の件は百万歩譲って諦めをつけ、今はどうすれば捕まえられるかについて考えることにした。

 だが、今は正午を過ぎ、何かを考えようにもお腹が空き過ぎて頭が働かない。


「では、お昼ご飯にでもしましょうか。」


 そんな俺の心でも読んだかのように言った菅原さんはどこからか取り出した大人数での茶道が出来るような高級感あふれるピクニックマットを広げ、これまたどこからか取り出した先ほどより高級感あふれる重箱が3つ現れた。


「では、いただきましょうか。」


 有無を言わさぬ、その姿に選択肢は一つしか与えられなかった。


「……いただだきます。

「いただきます!!」


 半日が過ぎたのに俺は何をしているのだろうと頭を悩ませてしまう。


〜〜〜


「…………あの〜ちょっといいですか。」


 無言の食事が続く中、田中さんが背筋と腕をピンと伸ばし、先生に質問をするかのように手を挙げる。


「あなた、同じクラスの成宮海斗さんですよね?」

「……はい...そうですけど...」


 急に脈絡もなく、ぶっ込まれた内容に一瞬思考を止めてしまったが、すぐに電源を入れ直し、片言ではあったものの言い返した。


「やっぱりそうですよね!! クラスメイトですよね!! だったら田中楓さんじゃなくて、名前の呼び捨てでお願いしますよ!!」


「……………………はぁ?」


 思わず心の声が漏れてしまった。……………………いややっぱり、はぁ? という気持ちになってしまう。それほどまでに全くわからない。


「いいですか。クラスメイトであるというとは友達であることとほとんど一緒なんです。」


「……はい?」


「だから、早く!! リピートアフターミー、楓!!」


「……………………………………かえで。」


 話したのは初めてであり、彼女について知ったのは今日が初めてであったが、全くと言っていいほど、彼女に口勝負で勝てるビジョンが見られなかった。

 別に口喧嘩をしていたわけでもないから、そんな気にする必要ないんだけど、なかなかに濃い性格の人だな。


「………でしたら、私からも一つよろしいでしょうか?」


 最初から最後まで俺らの会話を黙って聞いていた彼女、菅原朝露さんもこの状況に沈黙をやめざるを得なかったようだ。


「………あの〜先ほど話されていた名前の件なのですが.....」」

「私のことも名前呼びで構いませんのでよろしくお願いします。」


 いや、あんたもかい!!


 クラスでの彼女はいつも静かでどこであろうと気品が溢れ、歴史ある名家のお嬢様といった印象を持っていたのだが......やっぱり話してみないとその人の性格というものはわからないものなのだな.......


「…………うまっ。」


〜〜〜


 料理が得意な一面を知った昼食を終え、結局、猫探しは田な......楓さんと朝露さんの走りまわらず、聞き込みで情報を得ようグループと、俺の走りまくって猫を見つけようグループに分かれた。


 だがしかし、今さらながらに思ってしまうが.......


 猫探しとか無理だろ!!


 走り、周りを見渡しながら猫を探している今でさえそう思ってしまう。

 楓さんや朝露さんがやっているような聞き込みや掲示をすることで猫を探すのは分かる。むしろ、そっちが正攻法なのだから。

 一方で、俺の方はどうだろう。町中を走り回って猫を見つけるといったシンプルでありながら、圧倒的に脳筋な発想。

 見つかるかもわからない。この街ににいるのかもわからない。なのに、走る。そんなメロスよりも無謀なことをしている自分に猫探しの無謀さを改めて気づかされてしまった。

 探偵みたいな職業に就く人がなぜそんな仕事をするのかわからなかったが、あれもれっきとした仕事であり、心からの敬意を表したい。


 だが、それでも俺は走り続けなければならないのだ............気を身につけるために、な。


 実を言うと、戦道先輩から猫探しとは別に特訓をするように頼まれていて、内容というのは猫探ししている間に100km走るというものだった。


 正直、なぜそんなことを? とは思ったものの、『気を身につけるためですよ〜!!』と言われてしまったから首を縦に振るしかなかった。

 だからこそ、こんなにも脳筋的なことでもやり続けてしまうのだ。


「……はぁ〜、あと70km。」


 そんな地獄みたいな言葉を呟きながら今日もまた走り続ける。


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