第16話

  ――まぁ、可愛いからええか........じゃなくて!!


「そんなんでどうやって探すんですか!!」


 沼に沈むように止まりかけていた思考も使命によって引き戻され、本来の質問であった猫探しの件について話を戻した。


「だから、さっきも言ったでしょ。猫は猫求めて旅に出てるんだよ。」

「ならば、ここに猫がいるのだと知らしめれば良いんです。」


 そう言うと、急に立ち上がり、着ぐるみで短く見える手を大きく振り、周りに分かるように小刻みにジャンプをする。


「ハッピーハ...「言わせるか!!」」


 何か大声で叫びそうになった彼女を止めなければいけない気持ちに駆られて行動に移したが、何で俺はこんな行動に出たのだろうか?


「まぁ、分かりました。そこは100歩譲って納得するとしましょう。」

「ほら、納得できたじゃん!!」

「納得するとしましょうっていう話です!! まだ完全に納得はできてませんから!!」

「……それで、菅原.....朝露さん....ですよね。」

「はい。」

「あの〜.、その〜、言いずらいのですが........」


 田中さんの方は良かったと言うか、クラス内でのキャラも知っていたし、猫の着ぐるみといういかにもツッコんでください、と言わんばかりの格好だからこそ聞けたのが大きい。

 だがしかし、菅原さんに関して言えば、クラス内での雰囲気も知ってるからこそ、聞きづらい。だって.......


「………それって、着物ですよね。」

「はい、そうですが。」


 凛とした姿勢から放たれる言葉。特別すごい言葉を言っている訳ではないが、謎の迫力があり、圧倒されてしまう。


「それでどうかいたしましたか?」


 さらなる追撃に何も悪いことをしていないのに冷や汗が止まらなかった。


 だが、ここであきらめてはいけないぞ、成宮海斗!!

 

 ここで、諦めては異能研究部への本入部の道、ひいては異能習得への近道が絶たれてしまう。

 たとえ、一歩踏み出すだけで体中から血の気が引き、一言発するだけでも吐血しそうになったとしてもだ。


「あ、あの、その、ですね。着物って...あんまり運動向きじゃないのかな、と思いまして......あれ?」


 先程まであった彼女への恐怖心のようなものが一瞬にして消えていた。

 ある意味、彼女からそのような感情を感じていたのも一瞬であるのだから俺の勘違いの可能性もあるのだが、それを踏まえても強烈的に感じた感情だったため、印象が残ってしまっている。


「そうですか.........」


 少し残念そうな表情をする彼女。

 先程の例とは違って、クラス内での彼女の様子を見ていて真面目なのも知っている。それゆえに、彼女には彼女の理由があるのかもしれないと考えた訳だが.........

 それに今なら先程までの恐怖心を持たずに話すことができる。


「もしかして、何か理由が?」

「……いえ、特にはありませんけど。」


 先程までとは違った意味で恐る恐る質問をしたのだが、あっけらかんとした口調で話す彼女を見てどこか拍子抜けしてしまった。


「……え〜と、でしたらなぜ着物を?」

「それは......言うなれば、仕来り故だからでしょうか。」

「…………ほう。」

「今、私たちは部活動の一環としてこの場に来ております。しかしながら、私たちの関係は部活動の仲間以前に同級生であり、クラスメイトでもあるんです。」

「…………ほう。」

「だ、だからこそ、私はこのご縁を大切にしたいと思い、無礼などあってはいけませんから、このような服装で今回は来させていただきました。」

「…………ふむふむ。」


 つまりは、部活の仲間としてではなく、クラスメイトとして関わりたいということか?…………全然分からん!!


 話を聞いてみても結局のところ何でその格好にしたのかは分かったが、何がしたくてその格好にしたのかはよく分からなかった。


「着物とは本来、日本語で言う衣服という意味でしたが、近年では日本の伝統的な衣服という意味合いで使われているのです。現在着られているような形の着物が生まれたのは平安時代になってからのことと言われて............」

「あ、はい。」


 …………うん。もうこの話はよそう。何となくだが、これ以上話してはいけないような気がする。


 なぜかは分からないが、先ほどとは違った恐怖心に似たようなものを受け取り、この話は切り上げた。


「………それじゃあ、これからどうしましょうか?」


 頭を切り替えて一旦、現状把握に努める。

 今、ここには3人いて、まともに動けるのは俺だけ.......以上!!


 厳しい現実に改めて向き直り、膝から崩れ落ちそうになる。


 そんな姿を見て心配そうに寄ってくる2人。彼女たちはなぜこうなったのかを本当に分かっているのだろうか?


 はぁ〜これからどうするかな.......





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