第15話


「はぁ...はぁ...」 


 息を切らしながら、町中を駆け巡る。


「ひぃ...ひぃ...」 


 坂という坂を駆け上がり、穴という穴にも潜り込む。


「ふぅ...ふぅ...」 


 目の前に開かる壁はぶっ壊し、道無き道をも突き進む。

 

「へぇ...へぇ...」 


 そこが森であろうが、川であろうが、山であろうが、海であろうが、沼であろうが、空であろうが、剣山であろうが、人の家の中であろうが、止まることなく突き進む。


「ほぉ...ほぉ...」 


  だが、なぜだろう。

  こんなに一生懸命にやっていて、こんなに真剣に取り組んでいるのに.........体が、いや、心が何のために動いているのだろうと問いかけてくる。


「……お〜い。」

「……あらまぁ。」

 

 …………あ〜そうだったのか。

 全力疾走の影響でぼやける視界が2人の女性を捉える。


「どこ行ってたの、探してたよ。」

「大丈夫でしたか? かなり時間がかかっていらっしゃいましたが。」


 彼女たちの前まで着くと、電池が切れたロボットのように倒れ込んでしまう。

 

「お〜い、大丈夫?」

「あらまぁ、大丈夫かしら?」


 心配するような口振りをしているが、実際のところはこれと言って助けてくれるわけでもないし、むしろ倒れ込んだ俺に何かをするのかと思えば、ツンツンと脇腹を突くだけで知的好奇心を満たしているだけであった。


「だ〜か〜ら〜」


「……いい加減に、猫探し手伝ってください!!」


 脇腹への攻撃を耐え凌ぎ、必死の思いで仰向けとなり、空へ叫ぶ。けれども、響き渡る声は彼女たちの顔をぽかんとさせるだけであった。


〜〜〜


「いいですか、確認しますよ。」


「「はい。」」


「俺たちは部長からの依頼でここに来ています。」


「「はい。」」


「依頼内容は猫探しで、逃げ出した飼い猫を探すため今はにこうやって探し回っているんです。」


「「はい。」」


「それこそ街という街を駆け巡り、道無き道をも突き進んできました。」


「「… はい。」」


「だから、動きやすい服装で休日に集まって、探すのが得意だと言う田中楓さんと菅原朝露 さんの2人が選ばれたわけです。


「「……はい。」」


「俺も仮入部の部員の立場なのであんまりとやかく言わないでいましたけど....」


「「………はい。」」


「何でそんな格好できているんですか!?」


「「…………はい?」」


「何で分かってなさそうなんですか!!」


 先ほどまで走っていた疲労を取る意味を込めて近くの公園へ向かい、2人と今回の依頼の再確認を行おうとしていた。

 しかし、今回の依頼を共にするクラスメイトでもあり、異能研究部にも所属しているという田中楓さんと菅原朝露さんたちには上手く伝わらなかったようだ。


「…………あの〜ちょっといいですか。」


 背筋と腕をピンと伸ばし、先生に質問をするかのように手を挙げる。


「はい、何ですか?」

「では、言わせていただきますけど....この格好のどこが変なんですか!!」

「いや、全部ですよ全部!!」


 彼女の問いに思わず、ツッコミを入れてしまうが、それもしょうがないだろう。だって、彼女は.......


「どうして猫の着ぐるみなんか着ているんですか!?」


  そう。普通に会話をしているが、今俺の目の前にいるのはパジャマのような生地でちょうど口の部分は顔を出すように大きく開かれている三毛猫の着ぐるみを着た田中楓であっる。

 着ぐるみであるから普通なのかもしれないが、本来着るべき服よりも何サイズも上で、この服装に動きやすい要素があるとは思えなかった。


「いいじゃないですか、可愛いでしょこの服!!」 

「可愛いですけど問題はそこじゃないんですよ!! 今回は猫探しのために来ているんですから!!」


 そうだ。だからこそ、機能面で考えた際に彼女の服はいささか動きやすい服装というカテゴリーからは外れてしまうだろう。


「いや、これは猫探しにおいて最高に理にかなったものなんですよ。」


「えっ..............えっ?」


 一瞬考えたが、全然わからず、もう一度考えてみたが、やっぱりわからなかった。


「いいですか、猫だって人間と同じ生き物なんです。だからこそ、1人になりたい時だってあります。」

「ほうほう。」

「たとえば人間だって周りが宇宙人しかいない環境に放り込まれたら嫌でしょ。」

「……ほう、ほう。」

「ならば、その猫というのは猫を欲しているんです。」

「…………ほう、ほう........」

「「だからこそ、私が猫になったんです!!」

「…………」

「ニャー」

「…………」


 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっ。


 段々と発言がおかしくなっていき、最終的には自分の頭で処理できなくなってパンクをした。

 そして、脳内コンピュータを再起動させるが、目の前でスフィンクスのポーズをとって猫を表現している彼女の姿を見て、またもや思考が止まってしまう。


 ーーまぁ、可愛いからええか..............

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