第13話

「やっぱり気分がいいね、走るのは!!」

「ハァ... ハァ...そうですか、それはよかったです。それで話は変わるんですけど.....」

「うんうん。なんでも言ってみてくれよ、後輩くん。」


「でしたら......ハァ....言わせてもらいますけど....」


 走るのをやめ

「いつまで走るんですか!!」

「う〜ん......あと.2時間くらい?」

「学校に間に合いませんよ!!」


 体の疲労とあと1時間で学校が始まるという事実から、先輩に向けて叫んでしまう。


「いや〜大丈夫、大丈夫。学校だったら多少遅れても死ぬ訳じゃないからね。」

「そういう問題じゃないですから。と言うか、それ先輩は大丈夫なんですか!?」


「大丈夫、大丈夫!! 先生からも『お前は真面目でどんなことであろうとも一所懸命に取り組んでいるのは分かっているんだ。それでも、人間には得意なことがあれば、苦手なこともあるからな。ここは学校だから成績を付ける必要はあるんだけどな.....とりあえずは......生きてさえいればいいからさ。人間生きてさえいればなんとかなるからさ。だからな......頑張れよ。』って言ってくれてるからね!! だから、僕は成績なんか気にせず、頑張って走ることにしたのさ。」


「いや、それ本当に大丈夫なんですか? 何をやらかしたらそんなこと言われるんですか。」


 あまりにも先生からすごい心配をされている先輩の姿を見て、ツッコミを入れるどころか、親が子供を心配するように本気の声色になってしまう。


「お〜後輩くんも友達と同じこと言うんだね!! うんうん。心配してくれるなんて僕は本当にいい後輩を持てて嬉しいよ!!」


「そのみんなが誰なのかは分かりませんけど、本当にいい友人達だど思うので大切にしてください。あと、それだけ言ってくれる友人の話も聞いてあげてください。」


「そうか........そうだよね.......」


 あー少しだけ言いすぎてしまったか。 

 いつもの元気はどこかへ行き、俯いていて表情は分からないが、どこかどんよりとした空気が漂う。


「……うん。やっぱり考えたけど、部長が何を言いたかったのかわかんないや。あはは!!」

「いや、分かってなかったのかい!!」


 友人からの助言を受けたにも関わらず、今でも走ることをやめていないのだから気づくべきだった。

 彼女は猪突猛進なタイプではあるが、人から言われたりすればそのことを素直に聞くようなタイプであるように見えた。

 短い期間でもそのような印象を持つのだから、概ねそれは当たってるだろうし、彼女はただ単純にそのことを理解していなかっただけなのだろう。

 ……というか、友人さんって部長のことだったのか。あの部長を心配させるって本当に何をしたんだ?


「とりあえず、これ以上遅刻して退学にでもなったら、嫌なので今日はここでやめて学校行きますよ。」

「え〜!! また走り足りないよ!!」

「そんなことしていると、部長さんたちに迷惑が掛かってしまいますよ。」

「大丈夫だよ〜。いつも『僕らのことは気にせんでええし、周りのことも気にせんでええよ。くろねちゃんの好きなようにやってきてええよ。』って言ってくれてるもん。」

「そんなこと言わずに学校行きますよ。」


「そんなに行かせたいなら、捕まえてみ.....

...」


 逃げようとして駆け出しかけたところで回り込み、反射的に殴りかかろうとしてきた彼女の腕を掴み、静止させる。


「いきなり殴りかからないでくださいよ!! 本当に殺されると思いましたから。」

「うん? えっ、え〜!!」


 回り込んだ瞬間、目が本当に獲物を狩ろうとしてたからな。まじでやばかった。


「なんで捕まえられるの!! ずるい〜!!」

「ずるいとか関係ないですから、さっさと行きますよ。」

「い〜や〜だ〜!!」


 拘束された腕をそのままに体を空中で一回転させ、その勢いのまま足を首に巻きつけ、顔面を覗き込むような体勢となり、頭を揺さぶる。


「い〜や〜だ〜!!」

「だから、それやめてください!! 結構やばいんですから!!」

「い〜や〜だ〜!! 特訓するって言うまでやめないからね!」

「……もういいです。このまま連れて行きますから。」


 このまま言い合いを続けても埒が開かないと思い、苦しくはあるが、この状態のまま行くことにした。


「いや〜離して〜!!」

「もう何言っても無駄ですからね。あと、むしろ首の方は絞まってるので弱めてくれませんか?」

「え〜これなら早く離してくれるんだけどな〜。」

「多分、それ違うやつですから、人にやらないでくださいね!!」


〜〜〜


「ハァ...まじで疲れた。」

「あはは、朝からギリギリで忙しそうだったよね、海斗君。」


 机に突っ伏していた俺に恵魔から声が掛かる。

 結局、あのまま学校まで走っていって、途中からは肩車の状態で先輩も楽しんでいたし、学校に着く頃には機嫌も良くなって良かったのだが、先輩が校舎に走り去っていく際に言った言葉が頭に残る。


「でも、本当に良かったの? この練習を続けてけば、体力もつくし、気だって扱えるようになってもっと強くなれるのにな。」


 その一言だけが頭に残り、今はテンションが下がっている。

 …………気って何かわかんないけど、異能ぽいよな!! 

 なら、学校休んで特訓やるのもありだったと思ってしまう。


「そんなに疲れてるなら、今日は........」

「ねぇ、成宮海斗。今時間あるかしら?」


 恵魔との会話を遮り、陣条さんに話しかけられる。


「放課後部室に来なさい。依頼があるから。」

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